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JMR生活総合研究所

粗利益率の低下が進行 小売業中間決済より

 

進行する流通再編成

小売業の8月期中間決算が発表されている。研究する身分としては、すべての企業で前年と比較してみたいところだが、いくつかの企業が昨年と状況が違っている。

  • 「西友」は、ウォルマートの子会社になり、上場から姿を消した
  • 東急ストアも、東急電鉄の子会社になった
  • スギ薬局は、9月スギホールディングを設立、持株会社に移行した
  • 4月、セガミメディックスとセイジョーはココカラファインホールディングスとして統合した。
  • 8月、ユーストアはユニーと合併した。
  • カウボーイは、トライアルカンパニーの傘下に入り、11月には上場廃止となる。

などである。

「提携」という関係になれば、もっといろいろなことが進行している。

  • CFSコーポレーションとの統合計画が挫折したアインファーマシーズは、セブン&アイ・ホールディングスと業務・資本提携に入った。
  • ユニーとイズミヤは共同仕入れや商品開発で提携した流通企業の再編成は、小売だけにとどまらない。特に医薬品卸ではめまぐるしい合従連衡が進んでいる。
  • 一般医薬卸クラヤ三星堂のメディセオホールディングスと合併したパルタックが、コバショウを統合した。
  • 丹平中田、大木と提携を結んでいたアルフレッサが、メディセオ・パルタックホールディングスと経営統合すると発表した。
  • ピップフジモトとピップトウキョウは経営統合した。

「フルライン卸」をゴールとして統合を繰り返した食品のように、非食品領域でも「フルライン卸化」が進んでいる。

しかし、今後を推測すると、この「WIN連合」だけではなく、経営不振に陥った企業を吸収するM&Aも進みそうである。

欠損が目立つ小売中間決算

2月決算企業を中心とした08年度中間決算では、小売業にとって危機的な状態を示している。

特に目立つのが純利益での欠損が多いことである。

連結で160億円の欠損を出したイオンは、特にGMSの不振が大きく、イオン九州、北海道が、SM業態でもマックスバリュ東北が欠損となった。

GMSに分類されるフジも衣料の不振が響き9億円の欠損となった。

SMでは、カスミ、ユーストア、マルヨシ、丸和、マルヤが欠損となった。一般的にSMは食品が貢献して業績がよいとされているが、中堅のエリアSMは、厳しい状況のチェーンが多い。

ホームセンターでは、業態として成熟のイメージが強く、ふるい落としの状態となっている。サンデー、カンセキ、サンワドーなど中堅が欠損と、苦しい状態にある。

これらの企業も通期では黒字化する見通しを立てているが、業績の「下方修正」が多くなっている状態では不安が一杯である。

ここで整理した74企業の内、営業利益で「減益」となっているのが33社に達している。明らかに状況が悪くなっている。

ダイエーが63%、イオン単独が42%の減益であり、ここでもGMSの不振が際だっている。GMS11社の内、フジとイオン九州が営業利益欠損、他イオン単独始め8社が「減益」、都合10社の営業利益が低化している。ちなみに営業利益がプラスだったのはイトーヨーカ堂で0.4%の「増益」であった。

また、SMでも35社の内、営業利益欠損が3社、減益は16社である。

ドラッグでは8社中3社、ホームセンターでは13社中、営業利益欠損が1社、減益が5社である。

コンビニエンスストアでは、全般的に「タスポ効果」で潤い、ミニストップ1社のみが営業利益減益であった。

CVSを除けば、小売業の半分が利益減少していると言えよう。これが現代である。

粗利益率の低下・販管費の増加

営業利益の低下に対して、売上も減少している「減収減益」の会社は10社である。この他の減益会社は、利益の構造が悪化して、減益となった訳である。

CVSを除き、各社の営業総利益率、販管費率をチェックすると、

  • 営業総利益率が低下 29社
  • 販管費率の増加   41社

である。販管費率がアップした企業の方が多いが、営業総利益率も低下局面にあると言える。

好調であったコンビニエンスストアですら、ほとんどのチェーンで粗利益率が低下している。

既存店売上の前年マイナス企業は、20社、内、客数減少は15社である。

既存店実績では、CVSは「タスポ効果」で好調であった。

SMも「内食回帰」で堅調であると言える。反面、ドラッグでは好不調組が2分され、ホームセンターでは、(既存店実績が推定できる)6社、全てマイナスとなっている。

業態によって、好不調がはっきりとしている。

特にGMSは、11社中、営業総利益率が低下しているはイオン単独始め7社、販管費率がアップしているのは8社、既存店マイナスが6社である。個々の企業特性と言うより、業態特性としてGMSが危険な状態となっていることを示している。

イトーヨーカ堂にしても、既存店実績で、2.7ポイントのマイナス、その要因として客数も、客単価もマイナスしている。

同じようにユニー、平和堂も客数、客単価ともマイナスで、既存店売上がマイナスしている。

昨今、「土日集中」を改め、「平日需要」を活性化しようという施策が目立っているが(「顧客接点レポート」前号参照)、この課題を背負っているのがGMSである。

この間、出店戦略のポイントとなっていたショッピングセンターであったが、当時より「土日ショップ」の危険性が問われていた。

その上で、「値上げ・円高・株安・将来不安」による、消費抑制で「ハレの日」需要が減退している。あえて言えば「土日」の外出、外食が低迷しているのである。

これがGMSの厳しさである。 さらに言えば、衣料も家具も、家電もそれぞれのカテゴリーキラーによって、商品開発、品揃え、価格競争力を奪われている。構図的には百貨店と同じ道を歩んでいると言えよう。しかし、百貨店のように「食の上質化」や「化粧品のカウンセリング」のような策には至っていない。「日常品を中心に耐久性の高い商品を総合的にそろえた大規模小売店」という曖昧な定義が成り立つのかどうか、その瀬戸際に来ている。

「低価格ストア」の実験

8月に入って、セブン&アイHDが西新井で低価格ショップをオープンするという話題が広がった。当時は、セブン&アイHDのPB、「セブンプレミアム」は導入しないと言われていた。

「ザプライス」は、83年から4店ほど開店した「非食品」のディスカウント業態であるが、今度は売上の8割を食品が占める「低価格食品スーパー」を目指している。その意味では、最近話題のオーケーを意識したモノである。

オープン後、「導入しない」と言われていた「セブンプレミアム」を店頭化している。概ね、イトーヨーカ堂より1〜3割安いとされているが、「セブンプレミアム」の売価は、イトーヨーカ堂と同じであり、ナショナルブランド品の売価引き下げによって「安さ」を訴求している。

【図表3】主要ブランド売価比較

「ザプライス」は開店に当たって「7つの応援宣言!」を提唱している。

  1. 『家計応援』・・お客様に納得していただける安さを追及します。
  2. 『安心応援』・・安心安全のご要望にお答えします。
  3. 『エコ応援』・・省エネ環境保護に役立つサービスをご提供します。
  4. 『健康応援』・・健康な生活に役立つ商品やサービスをご提供します。
  5. 『選択応援』・・充実した品揃えからお選びいただけます。
  6. 『時間応援』・・忙しい毎日に役立つ商品やサービスをご提供します。
  7. 『適量応援』・・1本・1コからお買い求めいただけます。

である。特に、生鮮では「7・適量応援」通り、バラ買いができるようになっている。

一方、イオンは、これまで生鮮・デイリーを扱わない・「いつでも、おとくな、メガマート」を展開していたが、9月30日、練馬区平和台に食品を中心とした「アコレ」をオープンした。

取扱品目を、通常スーパーの1/6、1200アイテムに絞り込んで、ローコストで運営する。

イオンのPB「トップバリュー」は全体の3割を占める計画で、低価格を訴求する。

この2店舗を含め、最近話題になっているオーケー、トライアル、ディスカウントストアのロジャース、ビックエーなどと価格を比較した。(図表3参照:10月17日〜23日)

全般的に「安い」のは、トライアルカンパニーと言える。次いで、オーケーが安い。また、ロジャースも特価は少ないが、全般的に安い部類に入る。

対して、話題となっている「ザプライス」「アコレ」では、これといって安いブランドがない。場合によってはイオンやイトーヨーカ堂の方が安いアイテムもある。

「ザプライス」と「アコレ」の「低価格戦略」にとって、ネックは意外にもグループPB、「セブンプレミアム」であり、「トップバリュー」である。

このPBが、低価格を印象付けるのはグループ資産のおかげであるが、しかし、それを他の業態店舗より下げるわけにはいかない。「ザプライス」の「セブンプレミアム」も、「アコレ」の「トップバリュー」も、基本的には「イトーヨーカ堂、セブンイレブン」、「ジャスコ、いなげや、ミニストップ」と同じ売価である。

ここに「グループ企業」の「ディスカウント業態」の限界がある。「ザプライス」では、実質、最低売価は「セブンプレミアム」で表現されており、その意味ではイトーヨーカ堂とさほどはっきりとした低価格を表現できてない。

一方、「アコレ」では、「トップバリュー」より安いブランド品を採用している。例えば、「99円のPBなめたけ」に対して「88円のなめたけ」がある。「128円のPBカレールー」に対して「118円のNBカレールー」がある。「78円の500mlのPBお茶」に対して、「2g99円のお茶」がある。

グループ企業の一員であり、かつグループPBを扱うという制約の中での2店舗の展開、他のディスカウントモデルのチェーンと比較すれば、「低価格訴求」のインパクトは低い。あくまで、実験というレベルの取組であろう。

粗利改善・販管費抑制の施策

ディスカウントチェーンの収益モデルは、例えばトライアルでは営業総利益率は18.7%、オーケーで16.9%(いずれも08年決算)、ロジャースで16.4%(07年決算)である。販管費は、トライアル15.0%、オーケー16.8%、ロジャース11.5%である。

この「低粗利・低販管費」を実現するのが「ディスカウントモデル」であり、メーカーからの納価交渉だけがそのノウハウではない。

その意味で、「ザプライス」も「アコレ」も、その実現力があるかどうか、1店舗では判断できない。ましてや、その業態によってグループの収益構造が改善されることはない。

小売業の「粗利改善」の施策の柱とされたのがPBである。売価では安さを強調でき、しかも粗利益率が高いのがPB強化の理由である。

イオンのトップバリューは、08年度中間で1683億円にまで成長した。前年同期では38%増である。イオン鰍ナは22.5%、他グループ会社で58.3%の増加である。

イオン鰍フ物販売上に対して、トップバリューは10%に達しているという。

その意味では、トップバリューの戦略は成果を上げているのだが、イオンの営業総利益率は0.7%低下している。ミニストップも0.6%、ダイエーも0.6%下げている。

イトーヨーカ堂も0.2%営業総利益率を下げ、セブンイレブンも0.6%、ヨークベニマルも0.4%下げている。

先に見たように「販管費」を下げることはなかなか困難である。今後、GMSや食品スーパーがOTC薬品の販売に踏み切れば確実に販管費は上昇する。「客数・客単価、特に買上点数」を上げながら、「粗利益率」を高める・・・この当たり前の策しか、収益構造を改善できない。

イオンは10月18日、これまでの1000品目の値下げに加え300品目を追加して「がんばろう日本!とことん価格」値下げセールをさらに強化した。イトーヨーカ堂は15.16日の「円高還元セール」に続き、29日から11月3日まで50品目のセールを展開した。

イオンとイトーヨーカ堂の「生活応援」は、グループ各社にも飛び火しており、他のチェーンも追随する可能性もある。

また「価格競争」が注目される時代に戻ってしまった。

「価値訴求」の成果

既存店客数と客単価で前年を上回ったチェーンに食品スーパーのヤオコーと、ドラッグのスギ薬品、現在スギホールディングスがある。

「単身」「夫婦のみ」「親子核家族」に3分割され、それぞれに「50歳以上」の中高年世帯が半分を占めている。いわば、3つの世帯累計×世帯主世代:「青年層」「中高年層」の6つの家族類型に分解しているのである。

ヤオコーは、既存店客数0.1%増、客単価1.2%増、結果既存店売上1.3%増、営業総利益率は28.7%で0.1ポイントアップ、全社売上6.2%、営業利益1.8%の増収増益となっている。

ヤオコーの業績は07年度決算でも売上8.6%、営業利益5.4%増、既存店売上1.6%増とすっかり好業績企業となっている。

この体質を生み出した要因として、店舗のパートさんまで巻き込んでの「1400チームでの取組」「時間帯MDの充実」「徹底した商品開発と育成」という運動が功を奏している。

特に「青果」「ベーカリー」では、粗利がそれぞれ0.51%、2.01%アップしている。

またスギホールディングスでは既存店客数2.8%、客単価3.2%、売上6.1%増と既存店が活性化している。結果、粗利は28.2%で0.5ポイント増加している。(いずれも推算)

全店調剤併設を進めるスギ薬局では販管費も高く、22.6%で0.6ポイントの増加となっているが、既存店の活性化により、こうした販管費の上昇を吸収できている。

特に「かかりつけ薬局」として、高度なカウンセリングサービスを差別化ポイントとしている。

日経トレンディでは「今年のヒット商品」のNO1として「プライベートブランド」を上げた。

おそらく、今後の「ヒット商品番付」や、来年のトレンド予測としてまた「低価格」がキーワードになるであろう。

しかし、それだけではメーカーも流通も収益構造にはならない。顧客の「来店を促進し」「何点も買っていただくような仕組み」を開発する企業だけが、この難局を乗り切っていくであろう。

「100年に一度」と言われる世界的な金融危機、その影響も受けながら小売、それに繋がる卸、メーカーの世紀の構造転換が始まっている。