ピップ・スリムウォーク

 

「スリムウォーク」顧客拡大への取り組み

着圧ソックスとは、足首から上に向かって段階的に圧力値が弱くなっていく構造で、 血流を下から上へ押し戻すことを助ける機能を持つ商品である。今日では、むくみや 疲れに対する悩みケアの機能に加え、足自体を細く見せる美脚ケアの機能も重視され ている。主に30〜40代は悩みケア、20代は美脚ケアの機能を求めて使われているという。

■カテゴリーの形成

着圧ソックス市場のなかでナンバーワンブランドといえるピップの「スリムウォーク」。 2000年にこのカテゴリー初のマス広告を開始。2002年から「モデル御用達」というテレビ CMを投下した。このマス広告のおかげで、当時はほとんどなかったカテゴリー認知が一気に 高まり、市場が大きく成長する。 現在、着圧ソックス市場には、三つのカテゴリーがある。一つ目が、普段女性が履いている パンスト、タイツ、ハイソックス、レギンス、トレンカのような「日中用」。二つ目が、家 に帰ってから履く「おうち用」。三つ目が、夜、寝るときに脚をケアする「就寝時用」である。 日中用はある程度の機能を持たせながらも、消耗頻度の高い商品であり、パンストなどとの価 格比較もあり、比較的低めの価格帯である。一方、就寝時や家に帰ってからの商品は、価格的 な比較対象が少ない為、高付加価値、高価格帯を形成している。現時点のサブカテゴリーの構 成比は、日中用が約3割、おうち用が2割、就寝時用が5割となっている。

■新しいカテゴリー「就寝時用」の登場

2008年に競合社が、寝ている間に脚をケアする就寝時用のカテゴリーを創出する。ちょうどこのとき、 パナソニックのナノケアやワコールのナイトアップブラが発売され、「寝活」という言葉がメディア にも登場し、忙しい女性が寝ている間を活用して美容ケアをする、「寝ながら美容」のブームが到来。 「こんなものを待っていたのよ」ということで、市場が一気に再成長に転じていく。それまでは7割が 日中用、それ以外がおうち用という構成から、たった1年で就寝時用はカテゴリーシェアを3割まで獲得した。

■追いつき、追い抜くための戦略シナリオ

就寝時用が発売されるまで50%強あったスリムウォークのシェアは一気に20%強まで落ち、ナンバー ツーブランドに降格する。一方、競合社は最高で60%のシェアを占める。この事態から、シェアをど の様にして奪回するのか、一度シュリンクさせてしまった市場自体をどうやってもう一回成長に転じ させるのかを考えていこうということで、様々な戦略が実行されていくのである。 まずは追いつくために、就寝時用市場への参入である。成長カテゴリーへの投資シフト、フルライン 戦略の実施、価格競争力、商品開発のスピードアップの実行である。その後、追い抜くために、差別 性を強化して、新しいカテゴリーの創造を目指していく。これら差別化と新しい価値提案の実現に向 けては、様々な方法で消費者のインサイトを探っている。新たな市場機会の発見のための有識者への インタビューであり、女性の足・脚の実態をつかむことからの商品開発。また新商品の持つ共感イン サイトを発掘することで、見ただけで何か想像できてしまうような、商品に合うシズル感のあるクリ エイティブの開発に繋げている。 このような反転攻勢の約3年間の中で「夢見るここち」、「ふわモコ美脚」、「足指セラピー」など の新しいヒット商品が次々に誕生した。2012年には、特に20代の純粋想起、今後の購入意向率が高ま り、数量シェア、金額シェア共にトップに返り咲く。売上の成長率は2010年から4倍弱、利益では7倍 強に改善という成果を得た。