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e流通革命への対応戦略
 
景気回復下の急成長
 EC(電子商取引B2C)市場が一挙に大衆化しようとしている。当社の予測では、2004年の市場規模は、約18兆円、総小売販売額の約13%を占めるようになる。国内総生産(GDP)が年率1〜2%で伸びるとすると、総小売販売額に占めるEC化率は極めて高く急激である。70年代の組織小売業の成長も急激だったが、そのスピードの約2倍以上である。
このEC化をもたらす情報ネットワーク技術(IT)は、ひとつめは商品開発、生産のあり方を変える。情報の流れ、仕事の協力関係がネットワークによって変わる。B2B、BPR、SCMなどの領域である。ふたつめは川上から川下までの営業、チャネルなどの垂直のシステムを変える。三つめはコミュニケーションを変える。
 これまでのクローズドな企業を中核とした垂直システムからオープンで多元的な垂直システムへと変更される。
 この特集では、IT革命がもたらすe流通革命の実態、予測、メーカーへのインパクト、戦略の転換を、自主研究の結果を踏まえて、報告、提案する。(詳細報告書は、www.jmrlsi.co.jp)

T.e流通革命対応のメーカーチャネル戦略
 

急激なEC化がメーカーマーケティングを根本から変革することは言うまでもない。

■商品サービスへの波及

現在のEC市場を支える商品サービスは、パソコン、ゲーム等のソフト、書籍、チケットの三カテゴリーが主力である。しかし、今後はリードユーザーの世代交代による潜在的なニーズを背景にあらゆる商品サービスが20〜30%はEC化される。  ユーザーにとって店舗購入の魅力のない商品サービスほど急速にEC化されやすい。事前にブランド決定ができ店舗に出向いて自宅に持って帰るだけの買い物などは、その手間と時間を誰でも省きたい。

■流通システムへのインパクト

e流通革命はeリテイル(電子小売業)の誕生によって始まる。消費者は多様な端末を利用して、いつでも、どこからでも、商品サービスを探索し、発注し、決済し、自宅や会社などに配送してもらうシステムである。このeリテイルにはほとんど参入障壁がない。国境もなければ、もちろん商圏もない。この事が流通システムを根本から変える。変化は三つに集約できる。  ひとつは、垂直システムのすべてのプレーヤーがeリテイルに参入できる可能性をもつということである。メーカーも、メーカーの販社も、卸も、既存小売業も、そして新規参入者にもその機会がある。
 ふたつは、メーカーと消費者を繋ぐ、すなわち、生産と消費を繋ぐパイプの役割を果たす卸などの仲介業者(interーmediate)が大きく変わることである。
メーカーと消費者を直接繋ぐ中抜き(dis-intermediate)モデルから、メーカーと消費者を繋ぐ様々な再仲介業者(re-intermediate)が参入する(図表1)。
 三つは、既存の店舗依存小売業がeリテイルに参入することによって、店舗とネットでの小売とのハイブリッド小売が誕生することである。両者のメリットを生かして、さらに相乗効果を生む新しいモデルである。  e流通革命とは、これら三つの変化が相互に関連しながら、ユーザーのニーズや生活スタイルに適合した買い物ができる多様なシステムが生まれることである。消費者にとっては極めて自然なニーズである。時間、場所、販売員の商品知識に制限され、後悔する買い物をし、わざわざ小売手数料を払う方がおかしいのだ。
 
■eリテイル主導への転換

 店舗依存型組織小売業の時代は終わったと言っても過言ではない。店舗依存型組織小売業は、GDPの成長率程度にしか伸びないとし、その伸び率を1〜2%と想定すれば、4年後に約10%の売上減となり、その後さらに減少することになる。この売上減少を店舗依存だけで乗り越えられる企業はない。
 70年代から続いた組織小売業のチャネルリーダーシップはeリテイルへと移行することは確実である。では、どのようなeリテイルがこれからの流通システムをリードしていくのだろうか。アメリカでの事例を踏まえると五つのプレーヤーが想定される(図表2)。 第一は、純粋eリテイル主導型である。店舗をもたずネットだけで書籍を販売するアマゾンのようなeリテイルが主導するチャネルである。
 第二は、再仲介業者主導型である。価値編集業者、顧客代理業者などのこれまでの卸のような代理業ではなく、オートバイテルのようなディーラーを紹介する独自の情報編集者、新しい仲介業者が主導するチャネルである。
 第三は、ハイブリッド組織小売業主導型である。アメリカではKマート、書籍のバーンズ&ノーブル、日本ではセブン-イレブンのような既存店舗を生かした展開である。
 第四は、メーカー中抜き主導型である。言うまでもなく、パソコン業界のデルのような、卸、店舗小売に依存せずダイレクトに消費者に販売するモデルである。
 第五は、メーカー系列ハイブリッドモデルである。メーカーが系列店を持つ独自の流通システムを生かし、店舗とネットの相互作用を活用するモデルである。ソニー、松下電器などの先駆的な取り組みがある。
 どのモデルが今後の流通システムのリーダーシップをとるかは、それぞれの業界条件を踏まえなければならないが本命は、店舗とネットのハイブリッドである。

■メーカーのEC化対応の遅れ

劇的な変化をもたらすEC化にも関わらずメーカーの対応は限られている。任意の大手消費材メーカーのeリテイルへの参入状況を調査してみると、eリテイルへ参入している企業は、16社中9社、自社主力商品を販売しているのはわずか1社であった。他社は、専用や通販商品に限定した対応だった。このようにeリテイルへの参入が遅れ、対応が進まないのはいくつかの理由がある。なかでも、物流コストと既存取引先との軋轢があげられる。
 メーカーが消費者からダイレクトに受注する場合、宅配コストが壁になる。ヤマトなどのサードパーティ物流を利用すると、重量条件は考慮せずに「翌日配送370円」のコストがかかる。これを消費者負担ではなくメーカー負担で処理するためには、中抜きコストを約30%削減できるとすると、約1230円、これが採算受注単価となる。つまり、単価約1230円が参入障壁となるのである。
 他には、既存の取引先がeリテイルに参入し、ネット販売を始めた場合、チャネル間の軋轢を生むことは明らかである。大手消費財メーカーは慎重にEC化対応を進めているのが現状である。
 しかし、この対応が近視眼的な対応であることは言うまでもない。物流コストは、購入単価の条件設定やクロス販売による単価アップ、軋轢は流通政策の転換によって解決できるからである。メーカーのEC化対応は、少々の犠牲を払っても、進めるだけの新しい機会がある。対応しなければ、70年代流通革命以上の脅威がある。このことを確認しておく必要がある。
 最大の脅威は、メーカーが価値創造業から下請け工場になることである。小売のEC化対応を待って対応する政策を採用したとする。その企業の業界チャネルは、eリテイルあるいは組織小売業主導型になる。需要が一定で、チャネルが多様化し、チャネル間の価格競争が激化すればどうなるか。火を見るよりも明らかである。値引き競争で、ナショナルブランドは壊れ、残された道は小売業の下請け工場でしかなくなる。
 他方、最大のチャンスは、eリテイルへの参入によって、付加価値のある販売を展開し、需要創造を行い、売り方のリーダーシップを握り、ナショナルブランドのコア顧客への対応に集中することによって、ブランド力を高め、分散化したチャネルリーダーシップの一翼を担い価格の高価格維持を図ることである。値引き競争に飽きた消費者支持を得ることも間違いない。
 それぞれの業界、メーカーの置かれている条件を考慮しても、千載一遇のチャンスと悲惨な脅威を前に、多くの消費財メーカーは静かに座し、ただ待っているように見える。
■メーカーのeチャネル戦略

e流通革命に対してチャネル政策を転換するときである。現在の主な消費財メーカーのチャネル政策は、取引チャネルを限定しているか、開放しているか、さらに、限定政策のなかで、間接的な卸流通を起用しているか、自前の販社流通による系列店政策か、という軸によって三つに整理できる。限定卸流通システム、限定系列小売システム、開放流通システムである。近年のチャネル政策の焦点は、現状のシステムのうえで、組織小売業の市場寡占化にいかに集中的に対応するかにあった。
 e流通革命がもたらす新しい機会と脅威、それぞれの業界条件、自社流通システムの強みと弱み、これらを総合してeチャネル戦略は構築される必要がある。現状の政策ごとにeチャネル戦略の標準戦略を整理してみる(図表3)。

開放流通下の中抜き戦略
開放流通システムの強みは、既存流通との軋轢を回避しやすく、弱みは、店舗依存チャネルの強みを生かしにくいことにある。
 中抜きモデルによる主力商品でのeリテイルへの早期参入が必要である。採算物流コストを維持できる品揃えの幅やクロス販売に単価アップの条件をクリアーした上で、中抜きのリストラメリットを生かし、低コストポジションを生み、eリテイルノウハウの獲得とナショナルブランドに再投資していく政策が有効である。早期に参入し、eリテイルノウハウを獲得するのが決め手である。

限定卸流通下の二元戦略
限定卸流通システムは特約制度をとり、卸への特定地域の独占的販売権を与えることを前提としている。この特約制度は、組織小売業の広域化によって実質上崩壊し、メーカーの広域営業によって補完されている。この政策下では、卸のeリテイルへの参入、小売のeリテイルの参入という二段階でのEC化が進むことが予想される。この流通システムの強みは低コストでの全国配荷であり、弱みはチャネル間軋轢である。
 この強みを生かし弱みを克服する戦略は、ターゲットセグメントによる二元市場を採用し、商品の区分けによるeリテイルへの参入、新規eリテイル開拓、卸、小売のeリテイルへの参入サポート政策を採っていく必要がある。自社の参入は、eリテイル専用ブランドで対応し、店舗依存では対応できないターゲットへ向けたブランド投入による。純粋eリテイルによるブランド創造が決め手である。

限定系列下のハイブリッド戦略
限定系列小売システムとは、業種小売店の系列化政策をとり、自前の販社によって対応しているシステムである。このシステムの強みは小売との強いパイプであり、弱みは業種小売業の競争力低下である。eリテイルへの参入は、系列店の活性化策として有効性をもつものと考えられる。
系列ハイブリッド政策が基本である。店舗依存組織小売業と対抗できる手段の切り札は、eリテイル参入による店舗依存系列店との相互補完関係を創造することである。そして、メーカー−販社―系列小売の新たな分業体制を再構築する。eリテイルでは店舗の弱みである品揃え補完、営業時間補完、価値提案補完などが可能となる。同時に、eリテイルの補完として、商品の現物接触補完、アフターサービスの補完等が想定される。系列店内有力店再編を基軸に、販社をプラットホームにしたハイブリッドチャネルをエリアごとに再編する。

■マスカスタマイゼーション
商品の多様化には限界がある。技術上の限界ではなく、商品サービスに対する欲求上の問題である。欲求は、自らの欠乏意識だけでなく他者の欲求に依存している。欲求の他者依存性がある限り、百人百様の商品を製造することに意味はない。消費者は商品のモデルを提示されて自分の欲求を知ることができる。「ワンツーワンマーケティング」によって自分の好みに合った商品を入手できるというのは幻想である。寧ろ、マス商品をそれぞれの生活スタイルに合わせて提供することの方が百人百様である。商品が購入される時間と場所はまったく個別である。
 e流通革命は、消費者の購入方法を自分の生活スタイルに適合させる革命である。従って、e流通革命はチャネルの超多様性をもたらす。この本質を見極めるならばメーカーのeチャネル戦略の基本は、チャネルの多様性に対応することにある。それぞれのチャネルごとに量産化によって達成された効率的な価値を、それぞれの個客に合わせた情報とサービスをミックスし、生活スタイルごとに提供する仕組みが、「マス」(同質)+「カスタム」(異質)の組合せによる「マスカスタマイゼーションシステム(Mass- Customization System)」である。このシステムの実現によってモノづくりのメーカーは21世紀の価値提供業に進化できるのである。その進化ができる環境、e産業革命が始まっている。
(松田:関連論文www.jmrlsi.co.jsp)

本提言は、季刊「営業力開発」誌 2000・夏号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:JMR生活総合研究所)に掲載されております。掲載文は以下のII〜Yに続いております。

T.e流通革命対応のメーカーチャネル戦略
U.EC市場規模
V.EC市場のリーダー交代
W.商品サービスへの波及条件
X.eチャネル化率
Y.メーカーのeチャネル化対応
−ケーススタディ−
■Kマート ■ オンライン・スーパー ■ ソニー ■ TSUTAYA



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