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東京都心からのマーケティング革新

都市再生の鍵を握る東京ライフスタイル

東京への投資が加速する。都市再生特別措置法に基づく緊急整備地域として東京、大阪、名古屋都市圏の17地域が指定された。大幅な規制緩和を進めて5年間で5兆円の民間投資を呼び込むという。17地域のうち7つが東京である。都市再生に関わる政府予算の7、8割が東京に集中するとも言われている。
東京都心で60を超える大規模プロジェクトが計画され動きはじめている。三菱地所は、5,000億円をかけて丸の内の再開発をすすめる。森ビルの六本木ヒルズが2003年春に竣工する。総事業費2,700億円、土地評価を含めると4,700億円である。
さらに、森ビルは7月に不動産投資信託市場への参入と数年内にグループ会社を数社上場する方針を発表した。本体の上場も視野に入れる。都市再開発事業推進のために株式市場からの資金調達を大幅に拡大しようとしている。
最近の都心の人口回帰は、直接的には地価下落とマンション価格の低下によっている。人口回帰が都心ライフの再生につながるためには、高層ビルをたくさん建てることではない。安心安全な環境、歴史や文化芸術を楽しむ機会の豊かさ、そして多様な商品と高品質のサービスを提供する商業施設があって、職住商が近接した都心ならではの生活が必要だ。
巨額の投資を活かすも殺すもマーケティングしだいである。一方で、ヒトがヒトを呼び、ニーズがニーズを呼んで、東京都心の新しいライフスタイルが生まれている。

T.ブロードバンド革命がもたらす東京ライフスタイル革命

■東京再集中

景気の底打ちが明確になり始めたところで大きな変革のうねりが起こり始めた。それも東京都心部からである。起爆剤はブロードバンド革命であり都市再生法の施行である。この変革の波にうまく乗れば21世紀の序盤は十分にやっていけるはずだ。
東京都心部が変わり始めた証拠は人口増加にある。日本全体は2007年頃をピークに人口減少に向かう。明治近代化以降初めての大事件である。この人口減少と高齢化が日本を衰退へと向かわせる構造要因だとほとんどの人が思い込んでいる。経済成長の基盤が人口成長率にあるからだ。しかし、東京都全体、さらに都心部では顕著な人口増加に転じている。東京都の悲観的な予測でも2010年頃まで人口増が継続する見通しだが、おそらく、それ以後も増えていくだろう。日本全体では人口減少が進むが、東京は逆に人口増加が進む。地方での人口減少がより顕著になり、東京に人口が再集中していく。東京は成長し、地方が衰退していく。これが現実の姿である。
東京再集中の理由はいろいろある。なんと言っても都心部での地価下落によるメガマンションと呼ばれるような住宅供給が増えた。さらに重要なのは、東京都心部が、病院、教育、治安等の環境リスクや失業や病気などのライフサイクルリスクに強いからである。交番よりも数の多いコンビニや深夜営業の店舗があり、新しい就業機会やステップアップ機会が多いからである。意外なことに東京都心部は高リスクを回避する場所として最適であり、郊外や地方の方が様々なリスクが高いのである。高リスクの時代に東京、さらに都心部の魅力度が飛躍的に高まっている。



■ブロードバンド革命

ブロードバンド革命が起こっている。インターネット革命よりも凄いと言われている。この革命があらゆる領域に波及してくる。
この技術革新は、通信の広帯域化(ブロードバンド)と多重化によって、パソコンの処理速度を規定する半導体の技術革新のスピードを約4倍上回る革新によってもたらされる。18ヶ月で2倍の処理速度になる「ムーアの法則」から同じ期間で通信速度が8倍になる「ギルダーの法則」への転換である。つまり、約5ヶ月で通信速度が2倍になる。実際には違うが、喩えれば現在の最高速のアクセス手段は光ファイバーを使ったもので約100メガである。それが半年毎に倍のスピードになる。銅線を使ったxDSLの8メガ通信等がブロードバンドと呼ばれているが、潜在的な技術レベルではペタ(1000億)やテラ(1兆)の領域に達している。この技術革新が様々な既存産業を破壊し、新しい産業機会を生み、何よりも人々のライフスタイルを変えていく。変革のクリティカルポイントを三つあげてみる。
ひとつは、コンピューターの時代は終わるということである。理由は、コンピューターの処理速度よりも通信速度が大幅に上回るからである。つまり、処理速度の速いコンピューターよりも、遅くとも分散処理の方が効率がよくなる。こうなるとコンピューターと通信の主従関係が逆転し、約3000万行でコードされ約20万のバグのあるOSも、約80Wの発熱量のあるプロセッサも要らなくなる。ブロードバンド化はマイクロソフト社とインテル社の「ウィンテル帝国」の屋台骨を揺るがす。
「微軟」(マイクロソフトの中国名)の時代から、コンテンツの配信を受けるだけの機能を持つソフトと「軽薄短小」端末の時代を迎える間際にあるのである。
もうひとつは、NTTグループ主導の時代は終わるということだ。NTTグループは、光ファイバー等の通信インフラを抑え、音声による固定電話の収益源で売上を維持してきた。その収益源を支えるために、FTTHで100メガという「遅い」サービスしか提供できない。しかも、独占に見える光ファイバーは、国土交通省や電力会社も所有している。つまり、技術的にも、社会的にも、NTTの得意の交換技術ではなく、別の光の交換技術と光ファイバーを使った「全光ネットワーク」を既存インフラを使わずに張り巡らせた方が産業への波及効果が大きいのである。電信柱から家庭への「ラストワンマイル」ではなく、「ファーストマイル」が大事になって来た。銅線や約100メガ程度の光ファイバーは不良資産化してしまう。
三つめの帰結は、有料携帯電話の時代を終わらせ、高額な通信基地の必要な携帯電話システムが無用の長物となることである。これに終焉を告げるのは、3G規格が実質的に世界共通規格にならなくなり、次世代規格が企画倒れになりそうな事に加え、根本的には、ブロードバンド化の新しい担い手である無線LAN革命が進行し始めたからである。<br>
巨額の投資の必要な携帯電話の無線基地局に対して、わずか数十万円の設備投資で済む無線LANは、東京での熾烈なホットスポット競争とともに2002年度から始まった。外食やホテル等の特定スポットで、約10メガの無線LAN接続サービスを提供するものである。有線ブロードバンド系のMISやNTTコム等に加え、NPOも参入している。
年末にはIP携帯(約1500円程度の固定料金の携帯電話)も発売される予定である。無免許の無線LANは周囲100メートルまで約10メガで電波が届く。理論上は、東京地域なら約7万スポットで全域をカバーできることになる。投資額は約350億円で済む。点のスポットが面になれば、ローミング等の新たな技術も踏まえて広域を無線LANでカバーでき、音声通信をインターネットプロトコル(VoIP)で行うことができ、音声による携帯電話サービスを言わば付加サービスとして提供できる。無線LANは、携帯電話キラーとなる代替技術である可能性を持つ。
ブロードバンド革命がもたらす三つの変革の可能性は、通信インフラを根本から揺るがし、家電通信業界を根本から変え、多様な参入者による全光ネットワークをバックボーンに、無線LAN等の多様なモバイル端末で超高速通信の時代が到来することをもたらすのである。

■新しいメトロポリタンライフスタイルの誕生

高リスク社会の到来が人口を都心に集中させ、ブロードバンド革命が東京都心部で始まっている。この動きを後押しするのが2002年6月に施行された「都市再生法」だ。さらに、「都市再生緊急整備地域」として政府が全国で指定した地域は17地域ある。このうち7地域は東京である。具体的には、東京駅・有楽町駅周辺、秋葉原・神田地域、臨海地域、六本木周辺地域、新宿駅周辺地域、大崎駅周辺地域等である。これらの地域では、再開発に必要な諸手続きが簡素化され、開発に伴う時間コストが大幅に軽減され、金融支援も受けることができる。さらに、こうした地域指定とともに東京都心部では約68のプロジェクトが進行している。さらに、国が赤字国債でファイナンスせずとも、これらの賃貸マンションなどの証券化が進めば、約1400兆円の個人金融資産が東京に流れ込む仕組みが生まれることになる。この結果、地価下落が一定の範囲で抑制されれば、個人資産の実物資産も担保され、購買力のさらなる拡大に結びつく。
東京都心部が人と人のコミュニケーションと人の集積場所から変わり、新たなマネーの流れを作りだそうとしている。その最終的な帰結は、低リスク社会の職住分離型のライフスタイルによって郊外へと外延的に延びていく経済成長パターンから、高リスク社会の職住近接型のメトロポリタンライフスタイルの創造によって内包的に重層化していく経済成長パターンである。郊外から一時間の通勤時間をかけて仕事漬けで夜中に寝に帰る。近所付き合いと家事と子育ては専業主婦が担うという生活は、失業リスクのある社会ではとても安心できる生活ではない。面倒でないコミュニティに参加し、夫婦共働きで子育てという時間コストを優先するスマートなライフスタイルが増加することは目に見えている。
スマート化は四つの領域で現れている。第一に、時間コストが高いから待たされるのが嫌い。銀行で待たされる事ほど無駄な時間はない。だから、できるだけインターネット決済する。第二に、強制されるのが嫌だからテレビは見ない。番組はオンラインで在庫確認してからレンタルか、話題のドラマはAVパソコンで会社から予約して、決して広告は見ない。第三に、騙されたくないから情報比較という特性を持つ。食材への不信が強いから情報量の少ない値引きだけのスーパーは利用しない。第四に、安全が大事だから地域コミュニティの志向が強い。しかし、町内会のようなお仕着せは嫌いだし、子供や老人の安全なコミュニティ作りにはネット参加し、コミュニティ情報を大切にする。
新しい消費スタイルや暮らし方も生まれている。渋滞で時間コストの高い自動車よりも電動自転車で都心の歴史散歩、会社帰りは高級食材を「デパ地下」で三割引きでゲット、買物はインターネットで比較購買、衝動買いは通販の健康器具だけ、資産運用は友人との投資クラブで熱心という暮らし振りだ。
つまり、郊外に持ち家を持って住宅資産の価値下落のリスクを負い長期住宅ローンを背負い、無駄な通勤に労力と時間コストをかけ、生活費用を夫だけの収入に一元的に依存し、学校だけに子供の教育リスクを依存するという従来型の暮らし方が古くなっているのだ。
新しい暮らし方の芽は、東京都心部で胎動している。メトロポリタンライフスタイルである。実感なき景気回復を体感できるのは東京都心部であり、新しいビジネスチャンスが生まれている。 (松田)


II.東京・都市再生への金融の動き -森ビル、グループ会社上場へ 不動産投信参入狙う

2002年7月10日付 Asahi.com速報によると、森ビルは、株式市場からの資金調達に乗り出す方針を表明した。具体的には、「今後、数年間で現在非上場のグループ会社を5社程度上場するほか、東京証券取引所の不動産投資信託(REIT)市場への新規参入を狙い、最終的には本体の上場も視野に入れる。」同社が、銀行借り入れを中心とした間接金融からエクイティ・ファイナンスをベースとした直接金融へのシフトに向けて動き出した背景には、小泉内閣が掲げてきた「都市再生」政策が官民挙げて本格始動していくであろうという見通しの下、森ビルが自ら得意とする都心再開発案件の積極受注に向けて、目下制約となる資金調達面でのボトルネックの緩和を図ったことが挙げられるだろう。
ただ、本体並びにグループ企業を株式市場へ上場して資金調達を図るという通常のエクイティ・ファイナンスの手法で直ちに大量の資金を調達するのは、「都市再生」関連の最有望株のひとつであるとはいえ、現状の株式相場の不安定状況下ではメリットが薄くなるのは正直否めない。
そこで、都心再開発案件の大規模性と具体性を逆に活かして、不動産投資信託商品の組成と速やかな上場を図るという(日本では導入間もない)新たなエクイティ・ファイナンス手法が、より一層人々の注目を集めつつある。


■新たなる不動産投資ブームの下で高まる不動産証券化商品への関心

来年からの全面的なペイオフ解禁に向けて、行き場に惑っている個人金融資産がどのように動いていくのかが、更なる議論の的になっている。2002年度入りを契機に沸き起こった金地金投資もそうした流れのひとつといえようが、実は、金と並び現在人々の関心を集めているのが、投資向けワンルーム・マンション購入やJ-REIT等の不動産証券化商品などのような、不動産関連資産への投資である。
不動産投資のブームといえば、1980年代後半から1990年代初頭のバブル経済期を思い起こされる方が多いだろう。一例として、1990年代におけるワンルーム・マンションの供給状況を紹介すると、1990年7000戸超を記録して以来急速な落ち込みを見せていたものの、1995年に553戸と底を打って以降は、緩慢ながらも供給状況は回復軌道に戻ってきた。2000年には4574戸、2001年には5588戸、そして現時点での予想だと2002年には7000戸とバブル経済期に近い状況を見せるといわれている。
不動産証券化商品の基礎となる不動産小口化のアイデアは既にバブル経済期に議論されていたものの、不動産証券化商品が実際に市場に登場し始めるのは、1990年代後半に不動産証券化に関する諸法制が導入・整備されて以降のことである。 不動産証券化商品への関心が高まる原因としては、当該商品の設計上の特性(例えば、「少額で不動産投資が可能」、「リスク分散がうまく図れる」、「不動産そのものよりも換金性がある」等々)もさることながら、「ここ数年も続いてしまった超低金利ないしゼロ金利状況下で、5%前後という高い利回りを確保できること」に尽きるといえよう。勿論、こうした公称5%という高利回りは、前述のワンルーム・マンション投資ブームにも共通している要因といえる。
現在のところ、上場不動産投資信託(J-REIT)各種の予想収益率は4%台後半から6%台半ばになると見込まれているようである。2002年7月12日現在でみたJ-REIT各商品(上場5社計)の推定時価総額は約4178億円に達している(*1)。
2002年6月末時点での、TOPIX採用全銘柄の時価総額合計が約293兆円、東証マザーズの時価総額が約6867億円であることをふまえれば、J-REITの市場規模は、まだまだ小さい。ただ半面で、今後の成長が大きく望めそうであることも事実である。政府の都市再生本部が2001年8月に打ち出した「民間都市開発投資促進のための緊急措置」にそって、政府・地方自治体が支援を検討している民間都市開発プロジェクトは全国で286案件あり、金額ベースで9.9兆円がみこまれている。
約10兆円もの資金を民間事業者が円滑に調達していく為には、従来型の銀行借り入れや社債・株式による調達だけではおそらく不十分であろう。こうした民間事業者の強い資金調達ニーズが、新たなるJ-REIT等の不動産証券化商品に対する更なる成長期待を支えているといえよう。

■不動産証券化商品は定着するか

前節で取り上げたように、不動産証券化商品の導入は今のところ成功を収めつつあるようだが、こうした状況が今後も続くか否かは未知数である。
まず、公称5%という高利回りは、不動産投資が本源的に抱えているリスクを投資家が許容したことへの対価としてついた値であることを、忘れてはならない。不動産証券化により、個別の投資家の行動としてみればリスク分散と換金可能性が確保されている形をとっているものの、証券化の源泉となっている不動産自体のリスクは決して消えてなくなるわけではない。
また、リスクを取れる投資家が「都市再生」政策の本格始動を契機に湧き上がってくるであろう資金需要額を十分に吸収できるだけ存在すれば、問題は十分に緩和されるだろう。だが、個人金融資産1400兆円の大半があいも変わらずのリスク回避姿勢を続けてしまえば、「都市再生」政策自体も、その他の小泉政権の諸政策と同様「笛吹けど踊らず」に終わる可能性は否めない。
不動産証券化商品に限らず、日本の資本市場では、目新しい金融商品の多くが、導入前の熱い期待に反して市場に根付かないままジリ貧となっていくという歴史を繰り返してきている。不思議なことに、そうした商品のアイデアのほとんどは、おおよそ10年遅れぐらいのラグでアメリカから輸入されて制度化・市場投入の道を歩んでいるように映る。
今回焦点を当てた不動産証券化商品に期待を寄せるコメントを眺めてみると、その多くは、資金調達者ならびに商品提供者サイドからでてきたものである。しかしながら、不動産証券化商品に限らず、いかなるものも市場で受け入れられるためには、十分な量の需要者=投資家の存在が当然ながら不可欠である。そしてこの場合の需要者=投資家の中心的な存在は、バブル経済崩壊以来とりわけ、危険資産投資に対しては「羹に懲りて膾を吹く」がごとくに頑なな忌避姿勢を鮮明にしてきた、日本人自身なのである。さらにいえば、日本人にみられる同質的な「危険に対する姿勢」が逆に、不動産証券化商品をはじめとする直接金融市場の成長を阻み、新たなる突破口を自らふさいでしまってきたともいえよう。
1990年代ほぼ一貫して自己防衛に終始する中で生活基盤をじわじわと自壊させてきた日本人が、バンキング・システムならびに政府の財政投融資制度の中で事実上不良化しつづけている安全資産に今後もすがりつづけて底なし沼にはまる道を結果的に選ぶのか、あるいは、今回の不動産証券化商品および不動産投資ブームを契機に冷静な開き直りの姿勢を見せて"大人な"資本市場環境作りへと歩みだせるのか、いままさに大きな分岐点に立っている。今回の不動産証券化商品が現下の手詰まり状況の打開に向けた新たなる突破口となり得るかどうかは、不動産証券化商品という新たな「器」に込めるにふさわしい「都市再生」プロジェクトを厳選して地道に育てていく姿勢が、資金調達者・商品提供者・投資家の三者の間に形成されるかどうかにかかっている。  (菅野)

*1 推定金額の算出にあたっては,不動産証券化投資商品検索サイトに掲載の「投資証券情報:不動産投資信託(J-REIT)」の情報を用いた。この場合、推定時価総額は、2002年7月12日時点での投信時価(1口)と発行済み投資口数との積で算出した。

※ 本提言は、「営業力開発」誌 2002・No176号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:JMR生活総合研究所)に掲載されております。掲載文は以下のIII〜Yに続いております。

III.職住近接を目指す都心再開発プロジェクト
-六本木ヒルズ
IV.はじまった東京のスポット競争
-無線LANの急成長
V.無線LANの急成長
-流通営業の東京再集中と小商圏アプローチ
VI.東京市場シェア10%を巡る戦い
-都市型SMの競争(マルエツ、西友、クイーンズ伊勢丹)


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