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ネットワーク時代の新しいマーケティング

(株)JMRサイエンスでは、インターネットの普及、IT技術の進化に伴い、生活者の価値観に変化がもたらされ、それに伴って商品の選択行動や消費行動も変化していくだろうという問題意識から、毎年、衣・食・ 住・遊・健などのライフスタイル調査を実施している。この調査も5年になるが、どのような視点で消費者を理解していけばよいのか、その理解の視点である測定尺度のノウハウといえるものが我々に備わってきたと自負している。

一方で、我々の調査業務においても、IT技術の活用というのは、大きな課題であった。弊社では、他社に先駆け8年前よりインターネットリサーチシステムを自社開発し、皆様に提供させていただてきた。初期 のインターネットリサーチというと、郵送調査の代替技術のようなもので、 早くできるということが「売り」文句であった。 ネットリサーチだからこそできると いうものがあるはずだという信念のもと、様々なことを検討・研究してきた。ようやく、ひとつの答えを導くことができたと考えている。

本稿では、まず、我々の研究経緯 を簡単に紹介させていただき、また、 マーケティングがどのように変化し てきているかも概観する。次に、我々が続けてきた「ITインパクト調査」の結果を交えながら、消費者のこの5年間の変化をみていく。

最後に2つの提言論文をみていただく。ひとつは、消費者を理解するための視点・尺度とヒット商品へのメカニズムについての論文である。 もうひとつは、インターネット・リサ ーチならではのリサーチ・分析技術の紹介である。尚、本稿は(株)JMRサイエンスの川島隆志、河合学、清水絵里、田中庸介によるものである。

1.パワーネット・マーケティング

図表1 デジタルな時代の消費者理解フレームワーク総務省「情報通信白書」(平成17年度版)によ ると、平成16年時点でのインターネット人口普 及率は、62.3%になっている。これを年代別にみ ると、13歳から39歳までのそれぞれの年代では90%を超えている。また、40代では85%、50代では66%、6歳から12歳の小学生でも63%、60歳以上で26%という結果になっている。

平成13年よりe-Japan戦略が始まったが、このようにインターネットの人口普及率が相当高くなったので、次のステージ2010年のユビキタス社会(u-Japan) の実現に向けて、u-Japan 政策に移っていったのも、うなずける。

さて、このような背景の中、(株) J M R サイエ ンスでは、情報ネットワーク社会である「デジタ ルな時代」になるに伴って、われわれの生活も大 きな変貌をとげるであろうと考え、2000年より、関西学院大学商学部の井上哲浩教授とともに、生活者の選択・購買行動・消費行動、それを左右する消費価値観の研究をすすめてきた。

1.研究の経緯

2000年、過去のライフスタイル研究のレビューからのスタートであった。それらレビューを通じて、消費者行動の根底に存在し、生活者の消費行動を大きく規定している「価値観」に焦点を当てて議論していく必要があるという結論に達し、右図のような研究フレームを設定した。 フレームワークの詳細は、2001年Vol.3の営業力開発を参照していただくとして、まずわれわれは、消費者の購買・選択を左右する「価値観」を測定する尺度づくりからはじめた。これが 「JMR_e-Core Value Scales」である。本稿の3章で簡単に紹介している。その後、基本的な価値観尺度だけではなく、衣・食・住・遊・健などの様々な消費場面ごとの購買・選択・消費を左右する 「消費価値観」尺度の作成にも着手した。これについては、本稿の4章、5章にかけて紹介している。

2.本年度の研究成果

この5年にわたって、消費者を理解するために様々な角度から調査を実施してきた。5年を経て、(株)JMRサイエンスとして、ようやく消費者を理解するための視点を持てたと自信をもって言えるようになった。つまり消費者の「消費価値観」を理解するための尺度作りのノウハウが持てたということである。

従来の消費者調査では、生活者はこのように動いているのだから、その中のあるターゲット・ セグメントに合わせた商品開発をしようというものであったはずである。われわれの尺度開発 のノウハウとは、自社製品の価値に共感してくれるセグメントを抽出するための軸を設定して、それを分類する尺度を開発し、ターゲット像を明らかにするというものである。

冒頭でも紹介したように、AMA (アメリカマーケティング協会) により2004年の9月に、約20年ぶりにマーケティングの定義が変更された。前章で見たように、消費者の選択・購買・消費行動の変化に伴い、われわれ企業のマーケティング活動も進化してきたはずである。そのことにより、企業が実行しているマーケティング活動が、従来の定義の範囲を越えたために、定義自体が拡大されたと考えるのが自然である。

では、従来と何が変わって、その原因とも言うべき新しいマーケティング活動とは、何を意味しているのかをみていくことにする。

2.本年度の研究成果

1.1985年の定義

1985年の定義をみると、「マーケティング(マネジメント)とは、個人と組織の目的を満たすような交換を生み出すために、アイデアや財やサービスの考案から、価格設定、プロモーション、そして流通に至るまでを計画し実行するプロセスである」としている。つまり、交換を生み出すために、4Pを計画し、実行するプロセスとしている。

このときの代表的なマーケティング戦略にかかわるイシューをいくつかあげてみると、次のようになる。先発/後発の戦略 強者/弱者(リ ーダー、チャレンジャー、フォロアー、ニッチャ ー)の戦略 プッシュ戦略/プル戦略 価格 競争/非価格競争 市場細分化/差別化 プロダクト・ライフサイクル段階別の戦略などがあ る。最後のプロダクト・ライフサイクル段階別の戦略というのは、図表3のようにその段階ごとでの基本的な4Pの組合わせモデルのことである。つまり、それぞれの戦略において4Pの組み合わせモデルがあるということを学んできた。 図表2 AMA(アメリカマーケティング協会)における定義

図表2 AMA(アメリカマーケティング協会)における定義

2.2004年の定義

では、どのように変更されたのか。「マーケティ ングとは、顧客に対する価値を創造、コミュニケートし、それを届けるための、また、組織およびそのステークホルダーの両者が利益を得るという視点で顧客との関係性をマネジメントするための、組織の機能および一連のプロセスである。」 (筆者訳)

ここで注目したいのポイントは、顧客に提供するのは、サービスや財ではなく「価値」であるとし ている点で、さらにそれをコミュニケートすると している点である。さらに、それは個人と組織の交換を生み出すためとするのではなく、組織およびそのステークホルダー(利害関係者)の利益のためとしている点である。

企業が実行しているマーケティング活動が、従来の定義の範囲を越えたために、定義自体が拡大されたと考えるのが自然であると述べたが、では、最近のマーケティングとはどのようになっているのかを次にみていくことにする。

図表3 プロダクト・ライフサイクル別マーケティング

3.新しいマーケティング

最近話題になっているイシューをあげてみた。

ブランド(ブランド・エクイティ、ブランド体系マネジメント)
顧客リレーションシップ(OnetoOne、CRM、顧客ロイヤリティ、LTV)
カスタマー・エクイティ
・バリュー・エクイティ、ブランド・エクイティ、 リテンション・エクイティの成長
・新規顧客獲得、顧客維持、追加販売への投資 バランスを最適化する
ネット・コミュニティ(クチコミ、ネットコミ、 ブログ、2 チャンネル)
バズ・マーケティング(コネクター、ティッピ ング・ポイント)

それぞれを見ておわかりのように、その戦略を展開するにおいて、4Pミックスの基本形というものはない。これらイシューにおいては、自社はどのような価値を提供するのかを決めて、その価値 に共感してくれる顧客を探し出し、彼らにコンタクトを取っていく、という視点に変化してきてい る。そして、提供する価値、顧客像が決定されれ ば、次に重要になってくるのは、それらとのコミュニケーションである。価値をコミュニケーションするのであるから、同じ価値観を持ったコミュニティが大切になってくる。そして、その時のキーになるのがクチコミであろう。リアルなクチコミ、ネット上のクチコミ、これらをミックスした「バズ・マーケティング」が今後はよりいっ そうキーになると考えている。

さらに、最近のI T技術の進展に伴って、各企業が生活者と直接双方向で、接点を持てるようになった。そのため、従来以上に様々な問題も起こっている。これらを反映して企 業は、自社のステークホルダー(利害関係者)すべての利益を考える行動をしなければならない。すなわち従来以上に企業の社会的責任を考えなければならない時代になってきている。

以上のような背景を踏まえての定義の変更であると考えている。

4.本稿の構成

3章では消費者行動を左右する基本的価値観の変化、さらに4章では衣・食・住生活のこの5年間の変化を紹介している。5章ではバズ・マーケティ ングを考えるにあたっての基本的なネット行動の 実態を紹介している。

6章では消費価値観をベースとした市場戦略について提案させていただいている。7章では企業 の提供価値の具現化ともいえる製品デザインをマネジメントするための新しい調査・分析処方を紹介している。

われわれ(株)JMRサイエンスは、ネットワーク時代の新しいマーケティングを引き続き、研究していく計画をもっている。これらにご興味をもたれた企業は、ぜひわれわれとともに議論に参加していただきたい。(川島隆志)

消費価値観をベースとした市場戦略

1.価値観の多様化

2005年を振り返ると、世の中の価値観の多様化がより顕著になってあらわれた1年だったのではないだろうか。2月のライブドアによるニッ ポン放送株の取得、フジサンケイグループへの事業提携申し入れから始まり、楽天のTBS経営統合提案、村上ファンドの阪神電鉄株取得と いうように、既存の大企業とITや投資ファンドという新興企業との間での、世代交代とも言えるニュースが連日マスメディアを賑わせた。 ただ国民は、これらの新興企業の登場に新しい 時代の風を感じながらも、アメリカ流のマネーゲームに違和感を覚え、「お金で人の気持ちは買えないのでは」「日本人らしさとは何か」などと改めて考えたりもした。

また、今年は女性の「生き方」についてもさまざまなところで取り上げられることが多かっ た。昨年ヒットした『負け犬の遠吠え』をきっかけに、「結婚するのか、しないのか」「子供を産むのか、産まないのか」について議論されることとなり、「女は結婚して、子供を産むのが当たり前」と言われたのは遠い昔、少し前までは憧れの存在であった独身キャリア女性も今ではめずらしくなくなり、最近では夫の豊かな経済力で理想の生活を送る「セレブ」と言われる生き方も注目されるようになった。

さらに、世代を問わず、インターネットや携帯電話の利用が当たり前のようになり、世の中がますますスピーディーになっていく一方で、LOHA S(Lifestyle Of Health And Sustainability/ロハス)と言われる、健康・自然志向で環境にも 配慮したスローライフを好む人たちも出てきた。

このように人々の価値観がますます多様化してきた現代においては、「何が正しくて、何が間違っているのか」ではなく、「自分はどう考えるのか、どうしたいのか」が物事の判断基準となってきたと言えるのではないだろうか。そしてこのような価値観の多様化が消費行動の変化にも影響を与え、これまでの枠組みでは新しい消費者を捉えきれなくなってきていると考えられる。

2.消費価値観の研究

一昔前は、消費者のライフステージを把握できれば、その人の消費行動もある程度は予測できると言われてきた。たとえば、かつて「いつかはクラウン」と言われたように、自動車の購入にはライフステージとともにステップがあり、 カローラ→コロナ→マークUを経て、最終ゴールとしてクラウンを手に入れたというのが良い例である。しかしながら今はどうだろうか。同 じ50代でも、すべての人がクラウンを選ぶのではなく、ある人は若いころからの憧れだったフ ェアレディZ、ある人は手軽に乗りたいからキューブ、またある人は環境にやさしいハイブリ ッドカーのプリウス・・というように、その人それぞれの好みやライフスタイルによって購入する車を選んでいる。

この商品を選ぶときの選択基準が「消費価値観」であると考えている。

JMRサイエンスではこの「消費価値観」に注目し、2000年に消費者研究会を発足した。2000年といえばインターネットの普及が飛躍的に伸びた時期であり、インターネットや携帯電話の出現によって、消費者の価値観や消費行動は大きくかわるのではないかという仮説のもとに研究会をスタ ートした。今年で5年である。本章ではこの「消費価値観」をベースに消費者を理解し、ヒット商品を生み出す戦略につながる方法を提案したい。

3.従来のライフスタイル分析

消費者を量的に理解するには、通常消費者の ライフスタイルを測定するためのアンケート調 査を行い、収集したデータを分析する。具体的 には、まず理解したい領域、たとえばファッシ ョンや食生活などについて、質問項目を作成し、各質問に対して5段階や7段階で「非常にあてはまる」から「全くあてはまらない」のいずれかに回答してもらう。

この質問文を作成する際、ファッションであ れば消費者の意識や行動が分かる項目、たとえ ば「流行には敏感だと思う」「いつもシーズンに先駆けて洋服を買っている」などの質問を30問程度作る。アンケートが完成すると、調査対象者に回答してもらう。

回答結果を集計し、データを探索的に因子分析し、因子を抽出する。次にこの因子をもとにクラスター分析を行い、消費者をセグメントす る。このような一連の方法によって、多くの企 業でも消費者を理解しようとしている。

しかしながら、その領域における意識や行動について思いつくまま質問項目を作成し、探索的 な因子分析を行ってみても、どのような因子が抽出されるのかは、実際に分析をやってみるまで分からない。そのような因子で消費者をセグメントしても、結果的には自社のマーケティング戦略に活用できないということが多く発生している。

ではどのようにすれば、消費者のリアルなライフスタイルを測定でき、かつ、自社のマーケティング戦略に活かせるように消費者をセグメントできるのだろうか。

自社の戦略に活用できる、「使える消費者セグメント」を作る最大のポイントは、「消費価値観」をベースに「尺度」の開発を行うことであると考えている。そして、その尺度を構成する質問項目は消費者の「行動」と「意識」の両側面を測るものであること、さらに、その「行動」「意識」は消費者の最新のライフスタイルにフィットしたものであることの3つがキーとなる。

これまでJMRサイエンスでは「消費価値観」をベースにさまざまな尺度を開発してきた。その領域は衣、食、住、健康、スポーツ、美容、通販、ネットショッピングなどにわたっている。

4.「消費価値観」をベースとした尺度開発

では実際にどのように尺度を開発しているのかを説明したい。研究会では基本的な消費価値観として衣食住の領域において経年で消費者価値観をウォッチしている。その中から今回は衣生活(ファッション)の尺度とその尺度をもと に抽出したセグメントを紹介する。ファッション尺度は以下の6つである。

(1)流行志向
ファッションのトレンドや情報にどの程度敏感か

(2)センス志向
周りからセンスが良いと評価されているか

(3)セレブ志向
高級バッグ・時計などをどの程度持っているか

(4)安心ブランド志向
気に入ったブランド・店があるか

(5)コンサバ志向
洋服は流行より長く着られるものを選ぶか

(6)バーゲン志向
価格にはどの程度敏感か

さらに、これらの尺度をもとに消費者を7つのファッションセグメントに分類した。詳細はJMRサイエンス発行の「IT時代の消費インパ クト2005 Vol.2」をご覧いただきたい。

5.「見られたいイメージ」尺度

さらに2005年から、新たに開発を行っているのが「見られたいイメージ」という尺度である。 これは自分が他人からどのようなイメージに見 られたいかを測定する尺度で、たとえば、男性であれば、「仕事ができるビジネスマン」に見られたいのか、それとも「マイホームパパ」なのか、また女性であれば「かわいい女性」に見られたいのか、「セクシーな女性」なのか・・・など、消費者の「見られたいイメージ」の違いによって、その人の消費行動にも違いが出てくるのではないかという仮説に基づいて開発した尺度である。実際にこの「見られたいイメージ」の違いによって、同じカテゴリー内でも選ぶブランドが異なったり、また消費パターンについても違いが出てきたりという結果が出ている。 尺度の「見られたい志向」の一部を紹介すると 以下のとおりである。

(1)アクティブ&知的に見られたい志向

(2)セクシー&クールに見られたい志向

(3)セレブ&幸せに見られたい志向

(4)清楚&正統派に見られたい志向

6.現代の消費者セグメント

以上のような尺度、さらに各カテゴリーでの年間購買金額などを総合的に分析して消費者を 「消費価値観」別にセグメントした。分析に加えた項目は以下のとおり。

●衣食住尺度
●見られたいイメージ尺度
●趣味、旅行、好きな雑誌
●年間購買金額(服飾品、化粧品など)
●月間生活費

分析結果をもとに市場全体を把握するために作成したマップが【図表1】である。(マップは調査対象者から20 〜60代の女性だけを抽出して作成した)このように、年代×セグメントで市場をセグメントして見ることで、自社が狙うべきターゲットがどこに、どの程度のボリュームで存在しているのかを把握することができる。

以下では、このマップをもとに、特に50代ミセスに焦点をあてて、具体的にどのように市場戦略につなげていくのかをご紹介したい。

図表1 市場セグメントマップ(20〜60代/女性のみ)

7.50代ミセスのセグメント

市場マップを見ると、50代ミセスも複数のセグメント(タイプ)に分類されることが分かる。 ご存じのとおり、50代のミセスは行動もアクテ イブで、消費意欲も旺盛、また団塊世代ということで人口的にボリュームもあることから、市場においては、常に注目されている年代である。

その50代ミセスを今の時代では、ひと括りで捉えることができないといえる。彼女たちは、興味のある分野や消費パターン、日常の行動パターンなどによって、複数のタイプに分かれるのである。したがって同じ50代でも、どのセグメントをターゲットにするかによって自社が展開する施策がおのずと変わってくる。では今回 は50代ミセスの中でも特徴的な3つのセグメントを見ていきたい。

(1)健康・料理こだわり派 (50代女性の10.3%)
「料理」「食」「健康」への関心が非常に高い。 料理をするのは好きで、手作り志向。食の安全への関心も高い。健康のために食事の栄養バラ ンスには気をつけ、野菜を多くとることを心がけている。また食事だけでなく、サプリメントや健康補助食品なども上手に使って栄養補給をしている。健康のために定期的な運動も欠かさない。またボランティア活動への興味も高い。

(2)社交的・アクティブ派 (50代女性の26.5%)
3セグメントの中ではもっとも経済的なゆと りがあり、消費意欲も旺盛。「旅行」「買物」に関心が高い。とにかく出掛けることが好きで、友人とのお茶は週1回、ホテルでのランチは月1回というペース。デパ地下の利用率も高い。 人と会うことが多いためか洋服、化粧品、美容院への出費も多い。海外旅行経験も豊富で、行き先はハワイはもとより、シンガポール、オーストラリア、イタリア、韓国など広範囲に広がる。

(3)文化的・ナチュラル派 (50代女性の19.7%)
洋服、化粧品などへの興味は低く、あまりお金を使わない。ただし、文化的な趣味を好み、美術館やコンサートに行くことが好きである。 また食は無添加、天然素材など、自然系食品にこだわっている。

また、各セグメントで支持されている商品についても見てみた。

まず、「健康・料理こだわり派」。料理と健康に関心の高い彼女たちの間で人気なのが水蒸気で調理するという今までにない機能が受けてヒ ットしたスチームオーブン。水蒸気で調理することで、食品の脂や塩分を落としてくれることが健康に関心の高いこのセグメントにフィットしたようである。シャープの「ヘルシオ(約8〜 10万円)」松下電器産業の「スチームエレック (約5〜7万円)」というレンジとしてはかなりの高額にもかかわらず、このセグメントでの所有率は高かった。「今のオーブンがまだ使えるの に・・と渋る夫に、〈健康にいい〉というのは説得しやすい言葉だった」「新しいオーブンを買ったら料理をしたい気持ちも高まって、最近はスペアリブを焼いたり、グラタンを作ったり、オーブンを使う料理ばかりしている」というミセ スのコメントも聞かれた。

また健康のためにサプリメントの利用にも積極的なことから「コエンザイムQ 10」も人気である。テレビや雑誌などでその効果を知ったことがきっかけという人もいたが、友人から教えてもらったという「クチコミ」が圧倒的であっ た。使った感想は「肌にハリが出た」「疲れにくくなったような気がする」など効果を実感しているコメントが多かった。また「効いたかどうか分からないけど、飲んでいると安心するので」という回答もあった。

次に「社交的・アクティブ派」。消費意欲が旺盛で、新しいものが好きなこのセグメントに人気なのが「iPod(mini・shuffle)」。若い層をターゲットとした商品であると認識していたため、 50代ミセスでの人気は意外であった。購入のきっかけを聞いたところ、「スポーツジムの友人が使っているのを見て」「娘が買うというから一緒に買った」という回答。パソコンを使った音楽のダウンロードも自分でこなしているという。

また、出掛けることが大好きな彼女たちの間で人気なのがリクルート発行のクーポンマガジン「hotpepper(ホットペッパー)」。インターネットとともに、ランチするレストランを探すひとつのツールとなっている。クーポンと いうお得感もミセスに受ける要因のようである。

そして「冬ソナ」をきっかけとした韓国ドラマの人気はこのセグメントが中心となって支え ているようである。「冬ソナ」をきっかけに「ヨ ン様が過去に出演したドラマはすべて見た」と いう人や、「ドラマを字幕なしで見たいから」と韓国語教室に通っているという人も。また韓国ドラマを見るためにDVDプレーヤーや薄型大画面テレビを購入したり、ケーブルテレビを契約したという人もいた。

最後に「文化的・ナチュラル派」。このセグメントは消費にはあまり積極的ではないが、最近注目されている「LOHAS」的な生活には関心が高いようである。文化的レベルも高く、またムダな消費はしたくないという考えから、健康・自然志向で環境にも配慮したスローライフを好むようである。

8.商品がヒットするメカニズム

以上のことから、各セグメントで支持されている商品はそれぞれ違うということが分かった。つまり企業としては、自社の提供する価値(商 品・サービス)に共感するセグメントに対してその価値を提案することが重要なのである。

ただし、セグメント内で支持されただけではオタク商品のまま、つまり市場としては極めて 小規模のものとなってしまう。したがって、ヒ ット商品となるためには、もっと多くの人に普及する必要がある。つまり、ヒットする商品というのは、企業が提供する価値にまず共感した セグメントが「コア顧客」となって、その価値を他のセグメント「サブ顧客」に伝えていっているのではないかと考えている。

その普及させる媒介として「コミュニティ」 というものに着目した。さきほどの50代ミセスに調査したところ、それぞれ平均して5つぐらいのコミュニティに所属しているという結果が出た。その一例をご紹介すると、(1)テニスサークルの仲間(2)長男の中学校時代のお母さん友達(3)ボランティア活動の仲間(4)短大時代の同級生(5)家のご近所さんであった。

さらに、これらのコミュニティがどのように形成されているのかを見ると、たとえば、あるグループはテニスなどの同じ趣味のもと、ある程度同 じ価値観をベースに形成されている。ただし、すべてが価値観をベースに形成しているのではなく、PTAや家が近所という環境によって形成されているコミュニティも存在している。しかしながら、商品や情報は価値観ベースのコミュニティ だけでなく、環境ベースのコミュニティにおいて も伝播している。そして、コミュニティの中では驚くほどの情報交換がおこなわれており、コミュニティ内でのクチコミ効果はバツグンのようである。

また当然のことながら、あるコミュニティのメンバーはまた違うコミュニティにも所属していることから、クチコミはコミュニティを横断して伝わっている。さらに、そのクチコミの伝播はリアルだけでなく、バーチャルな世界においても、掲示板やチャット、ブログなどを通じて伝わっているようである。

では、このようなコミュニティの特徴をふまえて自社がヒット商品を生み出すためにはどのようにすればいいのだろうか。その仕組みを見てみたい(図表2)。

まず、自社が市場戦略を考えるときにスタートとなるのが、自社が提供する「価値」を設定することである。つまりこれは市場に受け入れられるように商品・サービスの「価値」を明確 にすることである。具体的には、「水で調理できる健康にいいオーブン」「アンチエイジングに効果があるサプリメント」など一言でいい表せるような価値である。

次にその「価値」に共感してくれる消費者を市場から探し出さなければならない。その際にキー となるのが「消費価値観尺度」である。自社の提供する「価値」に共感してくれる「価値観」を持ったセグメントを探すには「価値観」をベースとした尺度を用いるべきである。そしてその見つけ出したセグメントに対して、「価値」を持った商品を提供する。そし てその「価値」に共感したセグメントが コア顧客となり、各自が所属するコミュニティにおいて、そ れらの「価値」を伝播し、「サブ顧客」を作ることができる。その結果「コア顧客」 だけでなく、「サブ顧客」もその商品を購入することによって、 ヒット商品が生まれるのである。(清水絵里)

図表2 消費価値観をベースとした市場戦略

※本提言論文は、「営業力開発」誌 2005・No189号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:JMRサイエンス)へ掲載の1章、2章と6章です。誌面では以下の様な構成にて続いております。

Tデジタルな時代の消費者行動研究
U新しいマーケティング
Vデジタルな時代の基本的価値観
Wデジタルな時代の衣・食・住生活
Xデジタルな時代のインターネット生活
Y消費価値観をベースとした市場戦略
Z消費者の感性を捉える調査・分析の新技術

過去の提言論文バックナンバー
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・人口減少時代を考える
・「企業価値」を高めるプロモーション戦略
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・小売のメガグループ化と顧客支持
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