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JMR生活総合研究所

「接点完結力」と「人材」

 

コムソン事件の意味すること

高齢化の進行を、より促進する「団塊世代」が定年退職の時代に突入している。この世代は、常に「準備の悪い」ステージを通り過ぎてきている。今後、「職のないシニア」の時代を通過するが、すぐ「介護・福祉」の対象者になる時代が待ちかまえている。その「介護・福祉の準備」が悪すぎる。

コムソン事件は、反社会的な一営利会社の暴走ではあるが、「そもそも介護・福祉は利益追求の民間には合わない」という変な論調もある。

「介護・福祉」は、官・民一体となった「未来」への大きな準備であるが、コムソンのような「営利会社」のウエイトが圧倒的という訳ではない。「社会福祉協議会」という、「『公私共同』『半官半民』で運営」=(Wikipedia)されている「官」の拠点とほぼ同じウエイトであり、「リハビリ」や「短期医療」は「医療法人」が担っている。(図表1参照)

表1

しかし、高コストの「官」で、今後の福祉を担いきれる訳はなく、不足している「医療法人」のベットからは、長期要介護者は疎んじられている。期待のNPOもまだわずかである。その分、「民間でできることは民間」に期待されていた訳である。

その「営利法人」が危ない。後述するようにコムソンは、業界の中でも給与が高い企業と言われていた。

しかし、全般的には「介護・福祉」の「営利企業」の従業員の給与ベースはきわめて低い。人件費率の低い「レンタル」のケアサプライを別とすれば、主要な「営利法人」の従業員年収平均は300万円台である。つまり、多くの従業員は「300万未満」という実態である。(図表2参照)

表2

06年、介護労働安定センターの報告によれば、介護従事者の平均月収は22万5千円であると報告されている。さらに、職業別では

  • 居宅介護支援 26万600円
  • 訪問介護職員 20万6800円
  • 訪問入浴 21万4700円
  • 福祉用具貸与・販売 24万3000円
  • 理学療法士 31万5000円
  • 作業療法士 29万5900円
である。申し訳ない限りである。

この背景に、「営利企業」としての収益の悪さが隠れている。業界1位のニチイ学館ですら、経常利益率は1.4%で、当期利益は8.5億円、0.4%である。前期に至っては約10億円の欠損になっている。(図表3参照)

表3

「介護・福祉企業」の収入は、介護保険によって規定されている。薬価に依存する調剤薬局と同じである。社会保険費の抑制という大きなフレームの中で、「付加価値」が抑制され、「低所得者」を生み出しているのである。

結果、介護福祉の現場から、どんどん従事者が逃げ出している。06年アイレップは「介護職正社員の離職率は1年未満が35.2%、1年以上2年未満が20.5%、2年以上3年未満は16.0%。なんと3年未満に離職する職員は8割弱になる。」と発表している。

今年、有料老人ホームのベストライフという会社は「介護の仕事を志して入ってきた仲間が辞めていきます。介護士にはこの国の介護の未来が見えません。介護制度にあなたの声をください。介護士が希望を失う前に。」というTV広告を出稿した。

一方でニチイ学館は「学んで生かす。一歩踏み出しましょう」と就業を呼びかけた。その業界1位のニチイ学館の従業員平均給与は、4年前より下がっている。平均年齢・勤続年数も上がっているのに・・である。

今から数年前、5%を上回る失業率にあえいでいた時期、それを救ったのは「介護・福祉の仕事」であった。膨大な数の若者が福祉を志した。時代は、福祉産業が果てしなく成長すると見られていたからでもある。それが、この実態である。

さらに、これから団塊世代が「要介護」に突入すると、40万人の介護士が新たに必要とされている。その充足は、今のままでは絶望的である。仕事はあるのに、人が集まらない。アジアに人材を求めても、フィリピンの方々でも、日本よりカナダや欧米に行きたいと言っている。日本では正規の介護職につくまで2〜3年の時間を必要とする。入国人数まで制限をしようとしている。人手が足りないのに、「人材輸入鎖国」のような日本なのである。

団塊世代の「将来の接点」は、いつものように「準備不足」で寂しい限りである。

「人材が足りない」

介護・福祉の大手「営利企業」はパートへの依存率が高い。ツクイでは、常勤従業員1349名に対して、他非常勤従業員6895名、 8時間換算で3677名である。8時間換算による「総業務時間」で言えば、パート比率は73%であるが、「絶対人員」で言えば、84%が「パート」である。さらに、一人のパートで言えば、1日4.3時間しか「働くことができない」。

日本の産業の多くが、「パート」に依存している。スーパーマーケットやホームセンター、外食でも8時間換算で7割を超える。(図表2参照)

特にホームセンターは、(プロ・アマへの)「接客」を中心とした業態と考えられ、「多店舗化」には向かないとされていた。それが、パート依存度7割を超える。

さらに、ヘルスケアで「かかりつけ薬局」を目指す、ドラッグストアでも、パート依存度は5割を超え、さらに上昇しつつある。

そのドラッグストアが、「かかりつけ薬局」の軸になる「調剤」の取組を重視しているが、6年制に移行する薬科大学からは2010年、11年には新卒の薬剤師はでない。

医師の「不足」も指摘されている。02年6000ヶ所とされていた産婦人科施設が、実際に分娩を行っているのはその半分しかない。

小児科のある病院も95年の3900から、04年には3200件にまで減少しているという報告もある。

その上、「休めない」という。勤務医の1週間の平均労働時間は70時間、24時間連続勤務は月平均2・4回という。

結果、日本の医師はOECD平均に対して14万人不足しているという。

「絶対数不足」か「偏在」か・・という議論が国と医師会との間であるようだが、いずれにしても子供や妊婦、老人は医師に出会いにくくなっていることだけは確かである。

こうした「不足」は何も日本だけではないらしい。世界で「人材難」に苦しんでいるという。マンパワーの報告によれば、「人材難と応えた企業の割合」は、日本が61%、メキシコが82%、米国でも41%、カナダで36%、欧州で31%という。あの中国ですら19%、インドでも9%が不足しているという。

「人の不足」は昔からあった訳ではない。先に触れたように、介護・福祉も21世紀に入ったころは志をもった若者が大量に資格を取り職についたのである。

その若者の多くが介護・福祉の現場から離れていっている。日本の産業で、こうした「離職の過剰」は「卸・小売」、「飲食・宿泊」といった、私たちの日常的な生活接点でおきている。厚生労働省の統計によれば全体で「入職」、つまり新しく職に就く人の割合は05年で17・4%、反対に「離職」する人は17・5%、わずかであるがこのまま推移すれば毎年「不足」が進行することになる。

産業別には、先の「卸・小売」、「飲食・宿泊」でも、それぞれ0・4%、0・5%、「離職」が「入職」を上回っている。さらに厳しいのは、単に「不足」ということではない。「卸・小売」では、離職率が05年ではなんと20%にもなる。前年から5%も増えている。それを補うために19・7%もの「入職者」を探さなくてはならないのである。

「飲食・宿泊」はもっときつい。05年には、32%もの離職者が出ている。そして32%もの雇用を生み出しているのである。

人が減ればコストは下がるが、それを補おうとすると募集広告や面接など金銭的にも時間的にもさらにコストがかさむことになる。我々が毎日何度も利用している接点で、最終的に我々が担うコストが増え続け、そして「不足」が広がっているのである。

生産性が上がらない

「不足」であれば生産性を高めなくてはならない。例えば食品スーパーの従業員1人(パート含む)当たりの売上は年間でおよそ3000万円である。仮に実労250日、8時間とすると、1時間当たり15000円、粗利25%として、3825円の付加価値である。その中からパートに800円ほどが支払われる。

それを達成するための1人当たりの売場面積は30から60m²である。

この生産性が上がっていない。1人当たりの売上は04年と比較しても、ほとんど上がっていない。しかし、1人当たりの売場面積は着実に上がっている。生産性はむしろ悪くなっている。

人の量・質だけが生産性の悪化の要因だとは言えないが、少なくとも「人事」は大きな問題に直面している。

人事戦略を差別的競争力に

冒頭のコムソンの話に戻そう。少なくとも去年までコムソンは介護・福祉のリーディングカンパニーであった。給与が高いということもあって多くの若者が集まった。その数は年間で何千人という単位であった。人が集まるというだけでも大きな競争力になる。他の会社が人手不足から思ったような出店ができない中、コムソンだけが膨張を続けた。しかし、人手が多いだけでは利益は出ない。コムソンについては、事業所利益が出ないとすぐに閉鎖するという噂が絶えなかった。事業所が廃止されれば従業員は他に異動しなくてはならない。遠距離異動もあったという。そして多くの若者がコムソンを離れていった。他の介護・福祉会社では給与が下がるため、他の産業に移動していった。

「多入職・多離職」も会社利益だけからすれば「戦略」である。その意味では否定はできないが、顧客だけではなく、職種、業界を破壊した罪は重い。

寡占化が進む家電量販店で、トップを走るヤマダ電機とビックカメラ、ヨドバシカメラの激突が注目されている。

これまで郊外立地での多店舗化で1兆円企業にまで成長したヤマダ電機に対して、大都市駅前基幹店で勝ち残った巨頭の激突である。

その中でヨドバシカメラの収益力の高さは、一歩抜きん出ている。経常利益率は6%で、コンビニエンスストアのセブンイレブンと並ぶ高付加価値経営を実現している。その要因として従業員の生産性の高さがあげられる。

あの広い売場に、沢山の店員が走りまわっており、その質は高い。今年ヤマダ電機が公正取引委員会からヘルパーの強要について指導が入ったが、家電量販店では1960年代からメーカー派遣のヘルパーが常態化していた。80年代に入って公取の指導やメーカーの撤廃宣言によって、表立ってはいなくなったが、近年また指導や立ち入りが続いている。業界の話では、ヨドバシカメラの収益性の高さ、従業員の生産性の高さはヘルパーによるものだとされている。従業員ではないメーカーや卸の人的応援を得れば効率が良くなるのは当然である。

しかし、ヘルパー、あるいは販売応援を受けているのは、どの量販店でも同じである。「優越的な地位の乱用」か、メーカーや卸の「販促」かは別にしても、量販店の売り場には、店員以外の販売要員があふれている。

ヨドバカメラの外部要員の使い方のすごさは、その「知識と接客」にある。利用したお客が驚くのは、極端に言えば、どの販売員に聞いても一定以上の返事ができることだ。他の量販店では明らかにメーカーから派遣・応援に駆けつけていると分かる要員がいて、自分の会社の商品のことしか答えられない。

ヨドバシカメラは違う。一説によると、派遣されるメンバーは所定の厳しい研修を受け、4段階評価をされ、上位2段階でないと店には出られないという。まさに店員と同じスキル、対応を教えこまれ、それを実現するのである。こうした行為をヨドバシカメラからの直接的「指揮・監査」として(実際は中間に派遣会社を介在させていたと言われるが)立ち入り調査を受けたが、他の量販店には見られない、ヨドバシカメラの競争力である。少なくとも、顧客からすればヨドバシカメラの接客は、他のチェーンとは違う差別的な競争資源である。

同じようなケースは一杯ある。

百貨店のデパ地下がまた人気になっている。その中で新宿伊勢丹の評判が良い。昨年から部分改装を重ね、今年ほぼ完成した。その人気は毎月のようにTVで取り上げられている。

メトロ福都心線で、渋谷と新宿3丁目が直結し、田園調布・白金台・六本木からの顧客を吸引すると言われる。

その新宿伊勢丹に応援に入っている人々に戸惑いがあるという。それは、これまでデパ地下でよくあったハッピを着て、のぼりを立てて、大きなPOPを掲げるということを禁じられているという。POPを掲げるのなら、その分対面できちんと説明するようにと指導されている。

また、顧客の購買データから、関連購買のパターンを分析し、売場のレイアウトを決めている。

通常、同じゾーンに配置される日本酒、ワイン、洋酒であるが、新宿伊勢丹ではそれが離れている。日本酒は和惣菜との関連購買が多いというデータから「和」のゾーンに配置されている。そこには、POPも、商品説明のボトルネックも一切見られない。派遣・応援の人々が、伊勢丹と一体となって動いている。催事売場も同じである。この伊勢丹が三越との統合に動いている。一方は、若いターゲットを中心として売り場での接客、MD力で一歩抜き出た企業である。一方は、高額所得者に対しての外商力で抜き出ている企業である。双方の「人材」の相互作用が注目される。

もうひとつ、「人事の競争戦略」を見る。国の社会保険費抑制による薬価切り下げで、ほとんど利益が出ない状況にあると言われている調剤薬局で、アインメディカルという会社の利益率が良い。経常利益率5.9%、純利益率は3.4%である。同社は所謂「門前薬局」を主としているが、地域中核病院の前で大型の薬局を運営している。1店舗当りの売上げが業界で1億円/年といわれる中で、5.5億円を売り上げている。単に「大型」だから効率が良いというだけではなく、店を機軸とした生産性向上の取り組みが豊富で、「薬局長は店舗の社長」として、月次分析シートを使い、来局者管理、在庫管理、予算管理、労務管理を徹底している。また、店舗レイアウトの改善や、オペレーションの変更を日常的に実行している。

こうした「差別的な特徴」のために、薬科大学卒業生の人気も高く、「入社したい(病院以外の)企業ランク」で1位に位置している。沢山の人々が集まる企業は、必然的にその「質」も高められる。結果として、その「質」が、「量」を呼ぶのであろう。

プロの人材ートータルソリューション

人材の量と質を補う手段として、派遣がある。人材派遣の市場は飛躍的に伸びている。厚生労働省の発表では、05年度の労働者派遣は、

  • ・派遣先件数約66万件
  • (対前年度比32.7%増)
  • ・派遣労働者数・255万人
  •   (12%増)
  • ・年間売上高・総額4兆351億円
  • (対前年度比 41.0%増) である。

「人材ビジネスバブル」の様相を呈している。

ただし、こうした派遣を受けた企業からの評価は決して高くはない。派遣会社が派遣される労働者への研修は十分ではなく、かつ部分的な業務にしか使い切れていないというのが実体であろう。「人材不足」とは質と量の二面を含んでいる。頭数だけ揃えば良いという訳ではない。

アウトソーシングという言葉が一般的になっている。派遣も広い意味ではアウトソーシングだが、物理的な「人」の採用・派遣・管理業務の移管を受けているだけで、「課題解決」を移管されている訳ではない。

物理的な人の不足と、質的な業務の改善、または生産性の向上に寄与するアウトソーシングについての事例的な研究は思いの外少ない。

先に見た「離職率」の高い産業に「飲食・宿泊」があった。飲食についてはファーストフードやレストラン、居酒屋を考えればイメージはつく。では「宿泊」とは何を指すのか。イメージ的には古い旅館や民宿などを想定するが、実は大手・高級ホテルにおいても「人材・生産性向上」は大きな課題となっている。

業務がチェックアウト後のクレンリネスや、宴会時のスチュワードなど、「人材」が必要な日時が一定ではないだけに、無駄な雇用も多いということになる。

こうしたホテルの業務のアウトソーシングを受けている会社に、セントラルサービスシステム(以下CSS)という会社がある。06年度の年商は連結で132億、純利益2・1億の優良会社である。スチュワード事業はその内73%を占める。

この会社は全国197ヶ所のホテルから受注している。ザリッツカールトン、ホテルオータニ、ホテルオークラ、帝国ホテルなどすごいホテルばかりである。アウトソーシングの受け方はこうだ。

CSSはホテルに代わって、アルバイトを採用し教育する。「顧客から見積もりを求められると、まず厨房のレイアウトや従業員の動き方を観察。その上で宴会の平均的な回数やレストランの顧客数などを聞き、過去のデータに基づき、時間帯に応じて最低何人が必要か、配置を変えれば何人減らせるかなどをはじき出す。

大半の皿は大型洗浄機で洗う。洗浄、機に入れる皿の数を毎回、同じにして洗剤や水の量を節約する。洗剤が自動的に洗浄機に供給される装置では、洗剤メーカーと毎月面談し、適正な量だったかどうかチェックする。

ホテルとの間でインセンティブ契約を結ぶ場合もある。皿のブリケージ率は業界で平均〇・三%といわれるが、それを上回れば実額を弁償、下回れば一定の金額をもらう。」

こうして、クライアントの人材を補充するだけではなく、手間や経費を削減するのである。

まさにプロの仕事であり、ソリューションである。

日本で「人材不足」に悩んでいる外食や小売は、なかなか「成果」に対する報酬を支払うという習慣がない。「無償のサービス」を求め、かえって無駄なコストをかけている。あるいはヘルパーのようにメーカーにコストを肩代わりさせている。

そろそろ、「人的なソリューション」について真剣に考えないと、自分の会社に勤めてくれる人がなくなる。