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口コミから巻きコミへ

ウェブ2.0時代、以前にもまして注目される口コミを取り上げ、昨年「巻きコミマーケティング」を提唱した。(営業力開発191)

今号では、顧客資産の活用の視点も踏まえて巻きコミマーケティングの検討を行なった。特に、@「渦」が本当に生じているのか、「渦」はショートカットで他のクラスターとつながっているのか、A「渦」の中にいるのは心地よいか、B「渦」をつくることができるのは消費者だけなのか、の3点に注目して分析を試みた。

上記3点が十分に解明されているとは言い切れないが、消費者アンケートでは、口コミを発端にして多段階に購買が連鎖していく構造が確認され、そのプロセスを通じて「役に立てた」「自分が認められた」「仲間・一体感を感じた」ことで『幸せ・心地よさ』を実感しているコメントが発掘できた。

企業側の取り組みとしては、「教育や体感重視」「鮮度やインパクト」「敢えて口コミプロモーションは採用していない」など独自のコミュニケーション視点や活動が確認できた。

一方で、口コミ議論はますます過熱しそうだ。例えば、アルファブロガーを活用したインフルエンサーづくりなど、IT活用型の仕掛けが話題になることを予想させるが、むしろ、“弱いネットワーク”を活用した多段階の「渦」づくりや、クラスターを超えて広がるネットワークの視点を持つことのほうが、消費者が主体性に参加するネットワークへの近道ではないだろうか。

顧客が競争優位の源泉であることは言うまでもないが、その顧客と一緒に需要をつくることへの視点として「口コミから巻きコミへ」を置き、今後のマーケティング活動を考えたい。



顧客は企業の競争力である

1.企業の競争力とは

コアコンピタンスとは、日本企業の「強み」の研究に基づいて提唱された戦略論であり、1995年ゲーリー・ハメルトとC.K.プラハードによって定義づけられた。コアコンピタンスとは、「顧客に対して、他社には提供できないような利益もたらすことのできる、企業内部に秘められた独自のスキルや技術の集合体」のことであり[1]、具体例として、ホンダのエンジン技術、ソニーの小型化技術、シャープの薄型ディスプレイ技術などが挙げられている。

もともと企業のコアコンピタンスとは「企業内部のスキルや技術」とされていたが、その後の企業組織の複雑化やビジネスモデルの多様化により、ある企業の活動分野において「競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力」「競合他社に真似できない核となる能力」と企業全体の能力として、大きく考えられるようになった。

しかし、コアコンピタンスは、「企業内部の経営資源」に焦点が当てられていたが、「企業外部」には、目を向けられていなかった。

2.カスタマーコンピタンス

そこで、2000年、C.K.プラハードとラマスワミは、企業は価値創造のプロセスにおいて、企業の外にいる顧客の存在を無視できなくなったとし、顧客が企業の新しいコンピタンスの源泉となる「カスタマーコンピタンス」を提唱した。

とりわけインターネットの普及により、顧客が製品やサービスの提供者と積極的に対話するケースが増えてきている。しかも、この対話の主導権を握っているのは企業ではなく、顧客自身である。例えば、マイクロソフトのWindows2000のβ版の場合、世界65万人以上の顧客がテストに参加し、この製品の機能について改善点を提供している。同社は、顧客からの提案を付け加えることで、出荷時にはより良い製品になったと言われている。今後、企業が顧客と共に競争優位を築くためには、顧客が持っている知識やスキルを進んで学ぼうとする姿勢と積極的に対話を行う環境が必要である。

さらに、企業が、カスタマーコンピタンスを活用するための注意点として、以下の4つの点が挙げられている[2]。

@積極的な対話を奨励する
企業と顧客とが対等な立場で対話することの重要性を理解した上で、顧客の視点に立ち対話の目的や意味を理解し、会話の質を高めることが必要である。

A顧客コミュニティを利用する
インターネット上における、顧客自身が自由にコミュニティを形成できる環境を上手く活用することが必要である。ただし、情報流動のスピードは非常に速く、良くも悪くも言葉があっという間に伝播する点は、注意が必要である。

B顧客の多様性を管理する
新製品や新サービスの適応には、若い世代の方が年齢の高い層よりも早く、習熟度のギャップが存在する点に注意が必要である。

C顧客と協力し、顧客固有の経験を提供する
顧客の関心はもはや製品を購入することではなく、購入を通して経験を蓄積することを目的としている。自分の経験は自分の手で創っていきたいという要求に対応する必要がある。

つまり、企業と消費者が相互に作用することで、コンピタンスは生み出されことを考えると、カスタマーコンピタンス・マーケティングの実践こそが企業活動で最も重要な点であると言える。



人と人がつながり交流する世界

1.Web2.0時代のマーケティング

1-1.Web2.0とは

Web2.0という言葉の意味をご存知だろうか。Web2.0とは、インターネットのテクノロジーに関する難しい話ではなく、ウェブ上における世界観の転換のことである。梅田望夫は、「WEB2.0とは、ネット上の不特定多数の人々や企業を受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」と定義づけている[3]。つまり、参加したい人が自由に参加でき、自由につながり、自由に交流できるようになる世界のことである。

さらに、ティム・オライリーが発表した論文によれば、Web2.0を「参加のアーキテクチャ」と呼んでおり[4]、その特徴として、企業と個人の間に差はなく、情報の発信者、参加者として対等な関係となり、誰とでも意思があれば簡単につながることができることを挙げている。

1-2.市場の転換

それでは、Web2.0の世界観により市場の捉え方は、どのように変化したのだろうか。Web1.0とWeb2.0の違いを企業と消費者個人の関係から説明する。

従来は、製品の品質や機能、価格といった情報は企業の方が消費者と比べて多く持っていたと考えられ、両者の間には情報の非対称性が存在していた。しかし、インターネットの登場によって企業のみならず消費者自身が誰でも自由に情報を発信できるようになり、情報の一方的な送り手、受け手という関係がなくなり、企業と消費者との情報格差が小さくなった。これにより主に次の3つのことが可能となった。(図表1)

@情報の領域:ロングテール
WEB2.0においては、情報格差が解消されさらに加速したことで、消費者同士が連鎖的につながっていくことを可能にした。ブログやコミュニティサイトなどが簡単に人と人をつなげていくことによって、以前では見つけることのできなかった趣味嗜好や価値観が一致する相手を探し出して、意見や情報交換をしたりすることができる。これにより、マスメディアからの情報や普段の仲間達からでは得ることのできない「ロングテール(周辺部)」の情報を得ることができるようになった。

A企業と消費者の関係:フラットな相互関係
より情報を蓄え、高知識となった消費者は、企業のマーケティング戦略に簡単に従わなくなった。そこで、企業は消費者の意見や提案、ニーズを企業内に取り組むことでコントロールすることができるのではないかと考え、企業と消費者の関係は、一方向ではなくフラットな相互関係を望むようになっていった。現在では、双方向のコミュニケーションの実現が、ヒット商品を生む鍵にもなっている。

Bコミュニケーション方法:自由参加型
消費者同士および企業と消費者の間に垣根がなくなることで、消費者は情報を共有しあうようになった。以前は、企業の一方向の情報提供や公表、特定の消費者の情報発信だったものが、個人であればいつでもどこでも誰でも自由に参加することのできる「自由参加型」へと移り変わった。

図表1:Web1.0からWeb2.0へ


1-3.Web2.0型マーケティング

今までのマーケティングの対象は、消費者「個人」であり、「つながっている」消費者は想定されていなかった。そこで、Web2.0により、企業は本来のターゲットと「つながっている」消費者を意識することで、消費者間において発生する「知」を自社内に取り込み蓄積し、さらに流通させていくことができるようになった。また、消費者がつながることで、消費者のコミュニティが創造され、そこから新たな「知」を作り出すことができると考えられている。さらに、それらの声やつながりを分析していくことで、これまでの企業が想定できなかった消費者の心理や思考の広がりの可能性が見えてくるであろう。これは、今までのアンケート調査や購買履歴の分析などのマーケティングリサーチでは到達できなかった領域である。

つまり、これからのマーケティングの対象は、「作り出す消費者」「参加する消費者」「情報発信する消費者」となってくる。では、企業はどのようにして「つながっている消費者」に対して、マーケティングを仕掛けていけば良いのだろうか。その答えは、今までのように顧客や見込み客に対して「売る」ためのステージをつくるのではなく、社会に対して参加の枠組みをつくった上で、社会的視点を持った戦略を考えていくことであり、それは、社会の中に自社や自社の商品に対する“ファン”を生み出していくということだと考える。(図表2)

図表2:Web2.0型マーケティングの対象


2.口コミ

2-1.広告は信じられない

2006年、アメリカで出版された「テレビCM崩壊」が日本で翻訳出版され、ビジネス書の分野でベストセラーとなった。この本では、「広告が消費者の心に響かない」ことを述べており、これは現代の消費者は、広告に慣れすぎてしまい、「広告は企業に都合の良い情報の押し付けに過ぎない」ということに気づいてしまったためであると書かれている[5]。さらに、あるアメリカの調査では、「消費者はモノを買うときに、売り手の言うことは47%、メディアの言うことは53%、他の消費者の言うことは90%を信じる」という調査結果もある。

つまり、現代の消費者はマスメディアから一方的に浴びせられる大量の情報の中で生活をしており、決して広告が利かないのではなく、「広告を信じられなくなっている」のである。

今や消費者の多くは売り手やメディアより他の消費者の言うことを信じ、「口コミ」を重視している。マーケティング戦略における「口コミ」は、決して新しいものではないが、Web2.0という「参加できるインターネット環境」が整った今、消費者が「自分で情報を比較・選別し、納得して商品を購入したい」という欲求を消費者同士で満たしていることを考えると、今一度「口コミ」について考えなければならない。

2-2. 口コミとは何か

では、そもそも「口コミ」とはいったい何だろうか。

消費者行動の分野で口コミの一般的な定義として認識されているアーントによれば、「受け手と話し手の間で口承で行われる、人から人へのコミュニケーションのことで、ブランド、製品、サービスについて非商業的と受け手に認識されるもの」としている[6]。さらに田路は「口コミは購入者から未購入者へのコミュニケーションのことであり、購入者間でのコミュニケーションは含まれない」という条件を付加している[7]。ここで、「人から人」は、対人関係でのコミュニケーションのことであり、また、「非商業的」とは、話し手(発信者)と受け手(受信者)の間に商業的な利害関係がないということである。さらに、企業やマーケターが、口コミをコントロールすることは困難であり、逆に困難であるからこそ口コミの価値がある。口コミの発信者は、有名人である方が影響力が非常に大きいと考えられている。

しかし、Web2.0がもたらしたリアルとネット世界の融合により「口コミ」は、以下のように変化している。(図表3)


図表3:Web2.0がもたらした口コミ

@「見える」ようになった
今まで口コミが行われる場は、リアルな井戸端会議、携帯での会話、メーリングリストでのやりとりなどであった。しかし、多くの人がブログやソーシャルネットワークサービス(SNS)を使い、人々が胸に秘めた思いや考えが、ネット上に文章や写真として掲載されることで、保存され、他人からも自由に「見える」ようになった。これまでの新聞やテレビなどで報道されなければ見えなかった、人々の意見が「見える」ことは、最大の特徴である。

A「共感力」のある集団を形成する
ブログやSNSに集まった人々は、同じ地域に住む人、同じ趣味、考えや価値観を持つ人など、何らかの関係でつながる。つまり、特定の事象に関心の度合いが高い人々が集まっているため、共感力の強さではマスメディアより当然勝る。マスメディアは、社会的影響力は大きいが、個人の行動に影響を与えるという点では、ブログやSNSのマイクロメディアの方が強みを発揮する。

B「感動」が求められる
口コミが発生するために必要なものは、発信者の体験である。食事をして「美味しかった」、映画を見て「感動した」などのリアルな体験こそが、最大の発生源である。ブログやSNSは、強い印象を受けて、思わず多くの人に話したくなる気持ちを満たしてくれる。つまり、感動を伝達するツールである。

3.口コミによるコミュニティの創造

3-1.クチコミュニティ

現在、インターネットの評価サイトが企業の商品企画開発に多大な影響を与えたり、アクティブ消費者のブログによって、宣伝や広告などのプロモーションを一切行っていないにもかかわらず、ヒットする商品が生まれたりするケースが出てきている。これは、メディアが多様化したことで、企業が大々的なプロモーションを行っても期待通りの成果を得ることができなくなっており、例えヒット商品が生まれても、人気を継続することが難しく、商品寿命が以前と比べて非常に短くなっているためである。

そこで、日野佳恵子は、「口コミされる会社や商品になるにはどうすればいいのか」ということを提言するために、「クチコミュニティ・マーケティング」を提唱している。クチコミュニティ・マーケティングとは、「会社の理解者、共感者を増やす活動」であり、自社の商品やブランドの魅力に対して「共感を呼ぶブランド戦略」であると位置づけている[8]。

3-2.クチコミュニティ循環モデル

クチコミュニティ・マーケティングは以下の一連の流れを循環させることが重要であるとしている。(図表4)

@クチコミされる良いネタ(話題性)をつくる
クチコミされる良いネタとは、感動や驚きのあるワクワクする企画のことであり、企業側にとっては、他社と異なる特徴(自社の強み)を打ち出すことである。さらに、そのネタは、クチコミをしてくれる消費者が幸せを実感できるものでなければならないとし、これがクチコミュニティ・マーケティングにおける戦略の柱に位置づけられている。

A良いネタをクチコミしてくれる人たち(コミュニティ)をつくる
次に、クチコミが発信されやすい環境を整える必要がある。インターネットを最重要と考え、個人と個人をつなぐだけでなく、個人と複数の人をつなぐことを考える。これにより、クチコミを広げるためのコストや時間を削減できる。

Bクチコミのネタが正しく伝わる工夫(情報発信・配布物の活用)をする
クチコミには、非常に大きなリスクが存在する。それは伝言ゲームと同じであり、最初の人と最後の人では伝言の内容が大きく変わってしまう可能性がある。クチコミをしてくれる人が、正しく伝えてくれるための仕掛けとして、クチコミの印象を強め、内容をより明確にする工夫が必要となる。さらに、どのようなものなら消費者は感動するか、記憶に残るかを考えていく。

Cクチコミが広がる仕組み(イベント・友人との参加の機会)をつくる
最後に、口コミをより広げるために、新しい顧客ばかりを追いかけるのではなく、一度出会ったお客さまと長い付き合いができる仕組みをつくる。つまり、優良顧客の創造である。友人や親子で参加できるイベントやセミナー、パーティ、展示会など、情報交換する機会や場所を意図的・定期的に設ける必要がある。

図表4:クチコニュニティ循環モデル


※本提言論文は、「営業力開発」誌 2007・No195号(編集発行:日本マーケティング研究所執筆担当マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。誌面では以下の様な構成にて続いております。

3.巻きコミマーケティング
4. 消費者の中で発生する巻きコミ
<ケーススタディ>
ロフティー 新たな気付きが快感を呼ぶ
クラブツーリズム クラブ運営で繋がった消費者をとらえる
フリュー 女子高生の渦の中心=プリクラ
聖路加国際病院 これからの病院を支える「教育と会話」

5.顧客と一緒に競争優位を築く


 
過去の提言論文バックナンバー
・エコ・コミュニケーション
・新ネット時代のマーケティング
・再成長期の市場深耕のチャンス
・巻きコミマーケティング
・店頭を基点とした機能"連結"
・ネットワーク時代の新しいマーケティング
・パワーネット・マーケティング
・人口減少時代を考える
・「企業価値」を高めるプロモーション戦略
・「パワー・ブランドの構築とCRM戦略」
・消費回復下のマーケティングチャンス
・ブランドの拡大と強化
・小売のメガグループ化と顧客支持
・価値ベースのマーケティング戦略構築」
「情報差別化で売る 」
・デフレ不況下での消費者マインドを読む
コラボレーションによる売場活性化
デジタルな時代の新しいマーケティング戦略構築
東京都心からのマーケティング革新
「商品育成」をミッションとする営業の「売場つくり機能」
流通生産性を向上するメーカー戦略
デフレ時代の付加価値マーケティング
デジタルな時代の新しい消費者を理解する法則
競争優位のマーケティング
営業支援システムが目指す顧客とのBPR
顧客仕様を超える商品戦略
e流通革命への対応戦略
IT技術の活用と展望
店頭活性化への機能再編成
顧客とのリレーションショップの再構築
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