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大震災のインパクト

東日本大震災が明らかにしたものは何だったのか。地震発生後約半年を経た今の時点で、これまでの企業対応や消費者の意識を振り返っておきたい。

  まず最初に、震災発生当日から、あるいは翌日からすぐさまスタートした復旧・復興や事業継続の企業活動を追ってみた。 コンビニエンスストアの店頭回復努力は目をみはらせ、日常生活になくてはならない存在を強くアピールした。
  自粛の声もあったが、一方では元気を出そうの掛け声も高まった。義援金、寄付金に取組む企業が多数現れ、100億円規模で義援金や基金を準備しようという発表もあらわれ、企業と社会とのつながりを改めて考えさせるきっかけにもなった。

  次に、16年前の阪神・淡路大震災後の状況と比較しながら、復興へのプロセスを住宅業界の事例を中心に追ってみた。
阪神・淡路大震災発生時の状況と重なる部分、異なる部分を整理しながら、住にかかわる産業がどう動いたのか、今後市場はどう変化するのかを考えてみた。阪神・淡路大震災の1年半後には消費税が5%に上昇した。復興財源確保のための増税論議からも目を離せないが、今後産業全体にどのような変化が生じるのだろうか。

最後に、被災地だけでなく、中京、関西圏も含め、店頭の状況は、消費者の意識はどう変化しているのか、消費者の意識の変化を追ってみた。
  東日本大震災はこの数年の消費の低迷をさらに深刻なものにしてしまうのか、あるいは新しい解決策の糸口を示してくれ るのか。

  今回の震災を機に、マーケティング課題を再整理、再構成しなおすことを考えたい。


復旧・復興に向けた企業活動

1.阪神・淡路大震災との相違点

  千年に一度の大地震、津波被害をもたらしたとも言われる東日本大震災の被害状況と、16年前の1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の被害状況をまず確認しておきたい。

  下表にあるとおり、人的被害など被災エリアの広がりにおいて東日本大震災の深刻さは言うまでもないが、数値以上に阪神・淡路大震災とは異なった様相も浮かび上がってくる。
  今回の大震災は企業の被災、被害という点でも極めて広範囲、大規模なものになった。

  被害エリアがあまりに広範囲であったため被災した企業も当然多くなったことと、企業自身の復旧、復興への取り組みが実に多様に行なわれたことが特徴としてあげられる。
  地震発生の当日から各社各様に事業再開、回復への取り組みが行なわれている。阪神・淡路大震災の場合、比較的狭域被害のため被災企業自身による会社単位・事業所単位の活動は当然行われているが、今回は会社全体あるいは業界を巻き込んで、さらには業界を超えて全国規模の復旧への取り組みが進められていることが目立つ。直接的な被害を被っていない企業からも、ボランティアや義援金はもちろん、その会社独自の強みを活かした復興支援が行なわれているのも特徴である。

  IT技術を活用したさまざまなインフラ構築支援のなども行なわれている。
  これだけ大規模な被害に対し、世界中から義援金が寄せられるというのもこれまでにないことだろうし、日本企業のCSR活動も震災をきっかけに再度注目されている。
  企業活動以外の領域では、これまでにない社会現象がさまざまにあらわれたことにも注目される。
  地震直後に東京で発生した帰宅難民の情報源として一気に市民権を得たTwitterなどIT・情報システムの新しい動きは、その後の情報の錯綜や情報の真偽論争が飛び交ったことなども含め新しいメディアの浸透を定着させた。反面、テレビなどオールドメディアの魅力が一気に失われ、テレビ視聴率の急落などの影響があらわれた。
  そして、福島第一原発事故による電力・エネルギー問題の発生や放射線汚染による健康不安、食の安全など深刻な問題が発生し、食以外の安全・安心への関心が急速に高まっているのが現在の姿である。

東日本大震災、阪神・淡路大震災の被害状況
2.震災発生後の企業活動

震災発生後の企業活動を時間軸で整理した。
  ここでは、企業の復旧支援に関する活動のうち、自社の復旧に関する事例は除き、被災地(社会)全体に対する支援を中心にまとめている。
  その内容は、時間軸と共に以下のような変化が見られた。


@企業単体での緊急対策的な支援

物資や情報、義援金など企業が持つ自社の強みを活かし、素早く実施した支援

  • 震災関連サイトの開設
  • 緊急車両用の車提供・無償貸与
  • 被災者雇用
  • マッチング・ギフト、など

A企業と消費者が協力したモノ支援

義援金付商品や産直市、被災地で必要とされるモノを消費者が購入し送ることができるマッチングサイトの開設など、企業と消費者が協力して被災地のモノを購入したり、被災地にモノを送ることで支援する動き。義援金の使い道も、次第に奨学金制度や農業支援といった目的を明確にしたものに発展していった

  • 宅急便1個につき10円を寄付
  • 支援ギフト便、楽天たすけ愛
  • 緊急支援奨学金、など

B企業が後押しする現地での直接支援

震災当初より、社員の派遣等でボランティア活動は実施されていたが、企業内でのボランティ制度の整備や「ボランティアツアー」など、個々人では行なうことの難しい現場での直接的な支援を企業や団体がサポートすることでより参加しやすくなった

  • ボランティアツアー、など

5月に入ると、それまでの自粛ムードが一変し、消費することで経済を活性化させることが被災地支援になるという消費喚起の雰囲気が出てきた。
  企業側も、被災地に対する支援を継続しながら消費回復への流れに沿った新たな商品やサービスを展開し始めた。特に、5月末の東北・東京電力管内の電力削減要請後は「節電・省エネ」をキーワードにした商品やサービスが増加した。


C消費回復に向けた動き

「節電」対策としてサマータイム制を導入した企業も多く、就業前後の時間の消費を狙って営業時間を変更する飲食店や、春物の売上挽回を狙いバーゲン時期を早めるなど、消費回復に向けた動きが見られた。また、コンビニや家電量販店で東北への出店計画を打ち出す企業も多く、冬物商戦が早くも始まるなど、一部で消費回復が始まっている。

  • アフター4
  • コンビニの東北出店、など

震災発生以降、企業のさまざまな取組みのなかで、時間軸とは異なる部分から以下のようなケースも見られた。
  ひとつは、阪神・淡路大震災を経験し、その経験を今回の震災対応で活かそうとした動きである。
  大和ハウスは、阪神・淡路大震災では神戸を中心に大きな被害を受けたが、その際、工事会社なども含めた全国からの支援が集まった。今回の非常時は、「今度は東北を助ける時だ」として全国から延べ1,500人以上もの人員が支援に入り、地震発生後すぐに顧客の安全確認や住まいの点検を行なった。
同様に、甚大な被害を受けたコープこうべは「全国の仲間1万人以上もの支援を受けた恩は忘れない」としてすぐに現地に支援車や人員を派遣している。

  また、「泥だらけになった写真をどのように洗えばいいのか?」という問合せから始まった富士フィルムの写真救済プロジェクトのように、後に写真画像保管サービスという新サービスに発展したものもある。さらに、セコムでは写真という枠に収まらず、身分証明書の写しや服用している薬の情報などの預かりサービスを自社のセキュリティ事業と組み合わせた、新型ホームセキュリティを開発するなど、支援活動から自社の強みを再認識し、新商品やサービスにつなげた企業もある。

  さらに、ヤマト運輸では宅急便1個につき10円を義援金としているが、義援金の使用目的を明確にし、1年間という長期支援を4月上旬という早い段階で発表している。他にもサントリーの缶製品1本当り1円を義援金にする取組みなど、自社の事業に消費者を巻き込んだ支援であるコーズマーケティングの取組みが多くなっているのも今回の支援の特徴のひとつといえる。

   阪神・淡路大震災の時に受けた支援でのつながり、荷物を配ることできる地域とのつながり、地元の写真店の協力を得て写真の救済方法を伝える取組みなど、地域のつながりが支援の底流にある。
  自社の事業をきちんと推進することが、社会とのつながりを強め、企業評価を高めることになり、ひいてはブランドイメージも高まるという構造が浮かび上がってくる。
緊急時にできることとして自然発生的に取り組んだことも含め、そのことが企業評価や企業価値の向上に寄与しているとすると、今回の震災支援を通じて経済的価値を強めることと社会ニーズを高めることを両立しようとするCSV(Creating Shared Value)が実践されていたと言えるのではないだろうか。

(柴崎・前波)


※本提言「大震災のインパクト」は、「営業力開発」誌 2011年・No212号(編集発行:日本マーケティング研究所 執筆担当:マーケティング・コミュニケーションズ)へ掲載されています。尚、誌面では以下の様な構成にて続きます。

「大震災のインパクト」

T.復旧・復興に向けた企業活動
U.震災の産業への影響・住宅産業の場合
V.商品選択・店選択の重視点
W.震災後のマーケティング課題


 
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